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第十五話


 カーテンが開かれる音が聞こえ、窓から光が差し込み、その窓が開け放たれると外から鳥の鳴く声が聞こえてくる。


「……ん? あぁ、あのまま寝ちゃったのか」

「おや、お目覚めですか?」

 窓を開けていたのは、昨日部屋へと案内してくれた執事だった。


「おはようございます。すみません、どうも疲れていたみたいで……」

 まだ寝ぼけている眼を擦りながら、執事へと謝罪する。


「いえいえ、こちらこそ起こしてしまったようで。本日は暖かいので、少し空気の入れ替えをと」

「そういえば……」

 昨日に比べて今日は部屋の中も温かく、ベッドの横に誰かがかけてくれた毛布が落ちていた。


「昨日のうちに説明をしておけばよかったのですが、部屋には鍵がついております。そしてこちらが外からかけられる鍵になっておりますのでどうぞ」

「あ、ありがとございます」

 礼を言ってからユーマは気づく。


 ──この人の名前、知らない! 正確には森でマリーから聞いたはずだけど忘れた!


 と。


 世話になっておきながら、名前を知らないことを気にかけているユーマはなんと聞いたらいいものかと頭の中で考える。

 もちろん、笑顔のままで。


「そういえば……申し遅れました。私、当家で執事長をしておりますギルバートと申します。何かお困りのことがあれば、家の者であれば誰でもお気軽にお声がけ下さい。おや、これは昨日も言いましたか? 失礼しました」

「ははっ、いえいえ、お気遣いありがとうございます」

 ユーマの心を読んだような言動に驚きつつも、彼の気遣いに感謝の言葉を忘れない。


「そろそろ朝食になりますが、召し上がられますか?」

 そう言われると、窓からパンを焼いたいい香りが漂ってきて、自分が空腹であることを自覚させられる。それと同時にお腹がぐーっと音をたてる。


「は、ははっ、案内お願いしてもいいですか?」

「もちろんですとも」

 ギルバートは笑顔で言うと、ユーマを食堂まで案内していく。


 既にマケイン・マークス・マリーは席についており、ユーマはマリーの隣に案内される。


 朝食は焼きたてのパンとサラダ、そしてスープ、デザートに新鮮なフルーツが並べられており、お代わりも自由だった。


「それで、ユーマ殿はこれからどうされるつもりだね?」

 話を振ってきたのは領主のマケインだった。


「うーん、特に決めていないんですが、何か仕事でも探そうかと思っています」

 これは旅の間も考えていたことだった。こちらの世界に召喚されたユーマは身よりもなく、学生という立場でもなくなってしまった。

 ならば、日々を生きるためには働いて金を稼ぐ必要があった。


「えっ? ユーマ様、出て行ってしまうのですか?」

 マリーが悲しそうな顔でユーマに尋ねる。


「えーっと、しばらくはここに泊めてもらおうとは思っているけど、いつかはそうできればいいなとは考えているよ」

 ユーマの言葉にマリーは涙を目元にためてしまう。


「マリー、我がままを言って困らせてはダメだよ? ユーマ殿は自分の力でお金を稼いで、自分の力で生きていきたいと言っているんだ。応援こそしても、困らせるのは違うよ」

 なるべく優しい口調でマケインが説明する。


「うむ、男の門出じゃな。なんだったら、うちでの仕事を斡旋してもいいのだが……」

 マケインの言葉にユーマは静かに首を横に振った。


「こうやって食事を出してくれて、眠る場所を提供してくれるだけで十分ですよ。ここにずっといると甘えてしまいますからね。自分ができることを見つけるためにも、街で探してみます」

 ユーマにしてみれば、ふかふかのベッドつきの一部屋を与えてもらい、美味しい食事まで出してくれる環境は大したことをしていない自分にとって過ぎたことであった。


「さて、それでは早速街に出てみます。お昼は外で食べると思うので、夕食はご一緒させて下さい」

 口元を拭き、一礼をするとそのまま外に出ていった。


「あっ、ユーマ様!」

 後ろからマリーが呼び止める声が聞こえて来たが、マリーは話好きであるため長く引き留められることを避けようとの判断だった。


 小走りで移動するユーマの隣にギルバートは並走する。


「ユーマ様、屋敷を出て右手に向かいますと街のメインストリートに到着します。戦う力をお持ちであるなら冒険者ギルドに立ち寄ってみると良いかと思います。それと、森で倒した魔物の素材は同じく冒険者ギルドの買取カウンターで買ってもらうことができます。何か困ったことになった場合はエーデルハイト家の名前を出して良いとのことです。帰りは遅くなっても誰かしらいますのでノックして名前を言って下さい。それでは、いってらっしゃいませ」

 全ての説明が終わったのは、ユーマが丁度家の玄関に到着したところであり、ギルバートは息一つ乱さずに優雅な礼をして彼を見送った。


「ギルバートさん……かなりの実力者だな」

 これまで戦う力のある人物は城の兵士たち、クラスメイトの勇者たち、そしてマケインとラルフとアンディだったが、ギルバートは恐らくその誰よりも強さを秘めていた。そんなことを考えているユーマの表情は自然と笑顔になっていた。


「こっちの世界、色々と面白いな!」

 召喚されたあと、酷い目にあっている。王と大臣からは命を狙われ、クラスメイトからは全力で攻撃されてしまった。その後は、衛生的とは対極にある場所に死体と思われて捨てられた。


 にもかかわらず、ユーマはこの世界を楽しんでいる。


 自分の魔法の可能性、魔物に通用する力、魔物を倒したことで成長した自分。

 まるで自由に工夫できるゲームのような世界に、ユーマはワクワクしていた。



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