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第十三話


 マークスの領地は話に聞いていたとおり、森からだいぶ離れた場所にあった。

 最初の馬車で街まで移動、そこに預けていた走竜車に乗り換えて速度を上げての移動となったが、それでも到着まで二週間ほどかかった。


「やっとついたな、ラルフとアンディは走竜車を頼む」

「「承知しました」」

 マークスに命じられてアンディたちは屋敷での職務に戻っていく。


「さあ、我々は中に行こう。ユーマ殿は自分の家だと思って……というのは難しいかもしれないが、くつろいでくれ。まずは家の者に紹介を……」

 そこまで言うとマークスは言葉を止める。


 家の扉を開けて一歩入った瞬間、前方からドカドカと足音を立ててやってくる人物がいた。


「と、父さん!」

 マークスは慌てた様子で近づいてくる人物に声をかける。

 父さんという言葉から、その人物こそこの領地の現領主であることがわかる。


 領主の足は止まらず、怒りの形相と足音でマークスのもとへと向かっていく。マークスと似た顔立ちで皺の数が多い。マークスと同じくらいの身長であるにも関わらず筋肉質な身体は、マークスよりもはるかに大きく見える。


「いや、父さん! これには、わけが!」

 なんとか止めようとするマークスだが、ついには手が届く距離にまで領主がやってきた。


 ガツン!


 足を止めた次の瞬間、マークスの頭にげんこつが振り下ろされた。


「いったああああああああああああああ!」

 マークスは大きな声をあげると、恥も外聞もなくその場で頭を押さえながら転がり始めた。


「ふん、しばらくそうしておれ……マリー、おかえりいいいいい!」

 領主は転がるマークスを蔑んだように見ると、すぐに表情を切り替えてマリーを屈んで抱き寄せる。先ほどまでの鬼のよな形相はどこへいったのか、デレデレの笑顔になっていた。


「おじい様、ただいまです! 久しぶりに会えてすっごく嬉しいです! ただ……お父様のことをあんまり怒らないであげて下さい……」

 マリーは領主のことをギュッと抱きしめてから少しだけ身体を離して、マークスが怒られないようにお願いする。


「むむむ、マリーがそう言うならいいじゃろ。お仕置きはしたからのう……ただし! 話は聞かせてもらうぞ! それで、こっちの小僧は何者じゃ?」

 領主の興味はユーマに移っていたが、マリーは抱きしめたままでいる。


「俺の名前はユーマです。ええっと、旅人? みたいな感じです」

 曖昧なユーマの言葉に領主はピクリと眉を動かす。


「ふむ……」

 立ち上がると領主はユーマの周りをぐるりと回って頭から顔から手から身体から順番に見ていく。


「ふむふむ……」

「えっと……」

 確認の時間が長かったため、ユーマは戸惑いの声をあげる。


「ふむふむ、何か持っておるな。特別な何かを……しかし、よくわからん。わからんが、感謝しよう」

「えっ?」

 まだなんの説明もしていないというのに、感謝すると言われたためユーマはキョトンとしてしまう。


「一応自己紹介をしておこう。ワシの名前はマケイン・エーデルハイト。そこで転がっている男の父で、可愛いマリーの祖父じゃ……お主、自分のことを旅人とだけ言うということは、色々と話せないことがあるのだろう? そして、旅から戻ったマークスがわざわざ連れてきて、マリーもどうやら懐いているようだ。つまり、今回の旅の目的に対して協力してくれたということが予想できる。どうだ?」

「え、えぇ、その通り、ですかね」

 ユーマは次々に言い当てられたことに驚き、言葉に困りながらの返事になる。


「おじい様、ユーマ様はとっっっっても強いんですよ! 熊の魔物もお一人でバシッと倒しましたし、怪我をしたアンディのことも一瞬で治してくれたんです!」

マリーはキラキラと目を輝かせてユーマの活躍を話していく。


「熊の魔物、カラーベアか。それを一人で倒して、怪我も直したというのか? お主、ユーマといったか。どんな力を持っておる?」

 マケインは戦う力と回復する能力を持っているユーマに興味を持って、そんな質問をした。


「……それは、秘密です」

 ユーマは人差し指を口元に当ててから、そんな返事をした。顔は笑顔だが、目の奥には話すつもりはないという強い意志が隠されていた。


「ふむ、このワシを前にして、質問に答えないというのか?」

 マケインは険しい表情になり、鋭い眼光でユーマを睨みつける。その言葉には魔力が込められておりユーマのことを威圧していた。


「質問に質問で返しますが、自分の能力を初対面の人においそれと話すと思いますか? それに、あなたは俺がマリーたちに助力したのもわかっているようです。その俺に対して、そういう態度で来ますか?」

 笑顔のまま、ユーマも言葉に魔力を込めて質問する。


 マリーの魔力はこの家で最も強い。

 しかし、ユーマの魔力はそれを上回っていた。


「ぐ、ぐむむ、これはすごい……いやあ、はは、すまんな。強い男を前にしてついついからかうような真似をしてしまった。能力のことを気安く質問したこと、それに失礼な態度をとったことを謝罪しよう」

 相貌を崩したマケインは気の良い老人といった笑顔になると、頭を下げてユーマに謝罪した。


「こちらこそ生意気な態度をとりました。すみません……俺の力はただ一つ、収納魔法です。マリーたちにも言いましたし、別に隠すものでもないですよ」

 ユーマはあっさりと自分の魔法について話すことにした。すんなり話そうとしなかった理由は、能力について聞かれたからといってあっさり話すような軽さは見せたくなかった。


 そこにマケインからの威圧が加わったため、それに負けることも良しとしなかった。

 しかし、謝罪してくれた今ならば話してもいい、そう判断していた。


「ふ、ふはは、戦う力に回復の力を持っているお主の力が収納魔法とな? 面白い! マリー、ユーマ殿! ワシの部屋に行くぞ、話を聞かせてくれ!」

「はい!」

「あー、マークスさんは……大丈夫か」

 ユーマはチラリと倒れているマークスに視線を送ったが、なんとか親指を立てていたのを見て、安心して二人の後に続いていった。




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