第十二話
その後、馬車のところまで戻ったユーマたちは、いない間にユーマとエリーが何を見て、何をしていたのかを話す。
「えっ? そんなに長いことですか?」
二人の話に対して、マークスたちはしばらく探し回ったという話だった。
彼らの話からおそらく地球時間で三十分以上は探していたと考えられる。
「私たち、そんなに長くかかってませんよね?」
「湖が見つかって、みんながいないことに気づいて、精霊が話しかけてきて、それからマリーの状態がよくないことを精霊が見抜いて、即契約って感じだったからなあ……」
ユーマは改めてみんなと別れてからの流れを追いながら説明する。
「俺たちは馬車に戻ったり、またここに来たりを繰り返していたんだけどなあ……」
まるで狐につままれたような状況にアンディは頭を掻きながら呟いている。
『やれやれ仕方ない、人間っていうのは変なことを気にするんだなあ。時間なんかどうでもいいじゃないか!』
ユーマたちのやりとりをマリーの中で見ていた精霊が飛び出てくる。
「きゃっ、精霊さん!」
「「「精霊!?」」」
自分の中から現れた精霊にマリーが驚き、マークスたちは精霊という存在自体に驚いていた。
『僕はあの湖の周りにいたわけなんだけど、あの湖を中心に結界を張っていたんだよ。魔力の高い者だけが入れる結界をね。それで、結界を張ると結界の中と外で時間の流れにずれが出る。僕の場合はそのずれは小さい方なんだけどね。とまあ、そういうわけだから納得しておくように! それじゃあね!』
説明だけ終えると精霊は再びマリーの中に戻っていった。
「え、ええっと、そういうことみたいです。だから私とユーマ様には短い時間で、お父様たちは長い時間だったんですね」
あっという間の出来事にマリーもやや困惑気味だが、なんとか話をまとめていく。
「マリーは精霊と契約してから魔力の流れが綺麗になりました。きっと今後は魔力が高いことは彼女にとって長所にだけなるはずです。だから、今回のミッションは最高の形で達成ですね」
ユーマの言葉はマークスたちに気づかせる。
ここまでマークスたちは驚くばかりで、マリーが精霊と契約できたことに対して何も声をかけていなかった。
「す、すまなかった。マリー、契約できてよかった。おめでとう、これで、もう身体は大丈夫なんだな?」
マークスはマリーと向かいあい、両肩に手を置いて確認する。
それに対して最高の笑顔で頷くマリー。
「よかった……マリー様おめでとうございます!」
「マリー様、おめでとう!」
ラルフとアンディも彼女に拍手と共に声をかける。
「ラルフ、アンディ、ありがとう!」
これまで、どこか不安を抱えていたマリーは初めて不安から解放された笑顔を見せてくれた。
「さて、それじゃあ俺の役目は終わりですかね。そろそろ行きますね」
ユーマは今度こそはと、マリーたちに別れの言葉を告げて背を向ける。
「ダメです!」
しかし、右腕をマリーが必死の形相でガシッと掴んだ。
「えっ? いや、ここにいる精霊のとこまで一緒に行くって話だったはずだけど……?」
ユーマは彼女たちと交わした話を思い出しながら首を傾げている。
「いやいや、熊から救ってくれた命の恩人で、精霊との契約について行ってくれてマリーに未来を作ってくれた。そんな人物をこんな場所で放っていくなど、我が家名の名折れだ!」
マークスはユーマに感謝していた。
ユーマには何か隠している秘密があることはわかっている。それはおいそれと公にできるようなことではないだろうことも。
ここまで彼のことを見てきて悪い人間ではないことはわかっていた。マークスは戦う力はない。魔力もマリーに比べれば微々たるものだ。しかし、彼は現領主の父よりも、娘のマリーよりも一つだけ自信を持っている能力があった。
『人を見る目』
これまで、多くの人間を見て来たが彼が大丈夫だと思った人間は良い人間だった。
「ユーマ殿、一緒に行こう。君が抱えている事情、その力になれればとも思っている」
「……」
無言のままユーマはしばらくマークスの目を見る。
その目から意志が固いことが伝わってくる。
「はあ、わかりました。俺には身寄りがないし行く当てもないので一緒に連れて行って下さい。ただ、森の向こうにある城にだけは行きたくありません」
これがなんとかユーマが話せる情報だった。
「……なるほど。わかった、それだけ言ってくれれば十分だ。幸い我々の領地はこの森からは離れた場所にある。あの城の者と会うことも、そうないだろう。もしあったとしても君に不利な事態にはならないよう全力を尽くすことを約束する」
ユーマが城のことを口にしたのは、マークスたちのことを信頼してくれているからである。だからこそ、ユーマの信頼を裏切らないと強く胸に決める。
「そうです、もしユーマ様に何かしようとする人がいたら精霊さんと私で倒しちゃいます!」
マリーはそんな風に冗談めかしていうが、本当にそんな人物がいたら彼女は全力でユーマの味方になるつもりだった。
「ユーマ殿、私もだ」
「おう、俺もだ!」
騎士の二人も命の恩人であるユーマに対して、主人同様尽くす思いがあった。
「ありがとう。うん、色々言えないこともある俺のことを受け入れてくれてありがとう」
ユーマは、彼らの気持ちを素直に受け取り感謝の言葉を二度口にした。大事なことであるがゆえ……。
そこから近くの街まで馬車で移動することになるが、知らず知らずのうちに心身共に疲れていたユーマはいつの間にか眠りについてしまった。
城で部屋に閉じ込められ、城から逃げ森での睡眠、それからマリーたちと会うまで、ここにきてやっと初めて心穏やかに眠ることができていた。
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