第十一話
ユーマが先頭を行くのには、本で得た情報以外にも理由があった。
これまでにユーマは森で何度か戦闘練習を行っていた。それに比べて、先ほどもユーマはわかっていないが強力な魔物であるレッドベアを倒している。
ユーマのクラスメイトの勇者だとしても一対一で戦えば、必ずしも勝利できるとは限らない。
そんな相手を単独で倒している。そのことはユーマの身体に変化を与えていた。
「なんか、魔力感知とかしやすくなった気がするんだよなあ……」
本人はそれに気づいておらず、なんとなくの感覚で突き進む。
「それは恐らくユーマ殿が多くの魔物を倒してきたからだと思われます」
ユーマの何気ない呟きに対して答えをくれたのはラルフだった。
「魔物を倒したから、ですか?」
どういう意味なのかと、ユーマは首を傾げている。
「えぇ、魔物を倒すと魔物が持っている力を体内に取り込むことができ、そのことによって自らの能力が成長していく、と言われているのです」
「なるほど?」
ラルフの『言われている』という言葉に引っ掛かりを覚えたユーマは納得の言葉を口にしながらも、首を傾げてしまう。
「ははっ、それを実感できるほど魔物を倒す方がほとんどいないのです。昔からそうであるとは言われているものの、確信できる結果を得た人が少ないのですよ。ですが、ユーマ殿ほどの実力であればそれを実感できるだけの討伐数を重ねているのではと思いまして」
その説明を受けてユーマは自分が倒してきた魔物のことや、ラルフの説明について考える。
(なるほど、つまりはゲームでいう経験値とレベルアップみたいなものか。少数倒しても経験値が足らないからレベルアップしない、つまり成長を実感できない。俺の場合は城にいた時から魔物と戦っていたのに加えて、さっきの熊たち……特にレッドベアが強かったから経験値も多かったのかもしれないな)
「なるほど、さっきの熊たちの討伐で一定数に達したのかもしれないですね。なるほどなるほど、魔物を倒すことは成長にも繋がるのか……とても有意義な情報をありがとうございます」
魔物を倒すメリットがわかれば、今後も自分の立場を確固たるものにするために戦うのもやぶさかではない。そんな気持ちが生まれていた。
「おっと、そろそろかもしれないですね。なんだか魔力が濃くなってきた気がします」
前方からはこれまでとは異なる強い魔力が漂ってくる。まだ距離はあるものの、魔力がユーマの肌に触れているためそれを感じられる。
「わ、私にもわかります! すごい、です……」
魔力の強いマリーにもそれは感じられていた。
そこからは無言で進んでいく。やがて、開けた場所へと到着し、そこには事前の情報通りに湖があった。
「到着です……ってあれ?」
ユーマが振り返って声をかけようとしたが、そこにはマリーしかおらず他の三人の姿はなかった。
「あ、あれ? お父様? ラルフ? アンディ? みんなどこですか?」
マリーもそれに気づいて、キョロキョロとあたりを見回しながら名前を呼んでいく。しかし、誰からも返事はなかった。
『悪いけど、君たち二人しかここには入れないよ。魔力がないと結界を通り抜けることはできないからね』
「「えっ?」」
湖側から聞こえて来た声に二人は慌てて振り返る。
そこには髪の色、目の色、身に着けている服の色、全てが赤色をしている少女の姿が浮かんでいた。背中には羽があり、ぼんやりとオーラに包まれている。
『君たちは僕に用事があって来たんだろ?』
「あ、あぁ、あんたが赤き精霊ってやつなのか。俺の名前はユーマ、今回は彼女の付き添いでやってきた」
「わ、私の名前はマリエット、マリエット・エーデルハイト。マリーとお呼び下さい。本日は是非私と契約をして欲しくてやってきました」
ユーマに続いてマリーが自己紹介をしていく。礼儀正しいマリーの言葉に精霊は笑顔で頷いていた。
『うんうん、いいよ。君の魔力は綺麗で、こうやって話をしているだけでも心地がいい。それに、早く契約をしないと君の身体が耐えられそうにないね……』
赤き精霊もマリーの魔力が身体に負担となっていることを見抜いていた。
『それじゃ、早速契約しようか。もう少しこっちに来てくれるかな?』
「は、はい!」
マリーが赤き精霊の前まで行くと、精霊は右手をマリーの頭の上に置く。
『汝、マリエット・エーデルハイト。我との絆の契約に応じるか?』
赤き精霊は力ある言葉で問いかける。すぐさま契約を開始したことから、マリーの状態の危険性がわかる。
「はい、マリエット・エーデルハイトは絆の契約を受け入れることを了承します」
『承知した。これより、■■■■はマリエット・エーデルハイトと共にある!』
赤き精霊が本名を口にして契約が成されると、そのままマリーの身体の中へと吸い込まれていく。すると、先ほどまで不安定だったマリーの魔力の流れが調整されていき、彼女の身体が正常体へと変化していく。
「俺には名前が聞き取れなかったけど、とにかくこれでマリーは大丈夫みたいだね。よかったよかった」
ユーマは言いながら彼女頭に軽く手を置いて優しく撫でていく。
「ユ、ユーマ様! その、ありがとうございます」
マリーは頬を赤くしながらややうつむき加減になる。正面から顔を見られたら、恥ずかしがっているということがわかってしまうためだった。
そんなことをしていると、周囲の魔力が徐々に薄まっていく。
赤き精霊がマリーと契約して、この場からいなくなったことで周囲への影響が解除されていた。
「お、おぉ! マリー、ユーマ殿! 姿が見えなくなったから何かあったのかと思ったぞ! ……それで、ユーマ殿はなぜマリーの頭を撫でているのかね?」
マークスの表情は笑顔だったが、口元は引きつっており、いない間に何かあって二人が急接近したのではと内心でハラハラしている。
「あぁ、これはマリーが無事に契約できたからですよ」
「も、もうお父様ったら! ユーマ様は精霊様との契約の時に一緒にいてくれたんですよ! 変なこと言わないで下さい!」
マークスが何も言わなければもう少し撫でてもらえたのにという思いから、余計に強く当たってしまう。
「う、うむ、すまん……なんだと!? 精霊と契約ができたのか?」
その問いかけにユーマとマリーは顔を見合わせて笑顔で頷く。
「一体二人が姿を消していた間に何があったというのだ……」
必死に二人のことを探していた間に、既に契約は終了していたという話を聞いてマークスたちは呆然としていた。
お読みいただきありがとうございます。
ブクマ・評価ありがとうございます!
まだ評価されていない方は↓の☆から評価して頂ければ幸いです。