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第十話


 ユーマの収納魔法に関しては、実際のところ本人もよくわかっていないため話題にするのはやめて食事をすることとなった。

 アンディの料理はどれも美味しく、ユーマのパンもあったため、あっという間に食事を終える。


「それで、みなさんはなんの目的でこの森に来たんですか? 馬車を置いて中に入ったということは、森を抜けた先ではなく森自体に用事があったものだと思いますが……」

 ユーマは状況から彼の目当てが森にあると考えていた。


「なるほど、ユーマ殿はやはりなかなか聡いようだ。その通り、我々の目的はこの森。正確にはこの森にいるという赤き精霊に会いに来たのだ」

「赤き精霊……精霊ということは契約に来たということですね」

 ユーマは城の書庫で読んだ本からその結論に至る。その視線はマリーに向いていた。


「うむ、マリーの年齢は十三だ。精霊と契約するにはそろそろ年齢が厳しい。だから、我々で森にいるという赤き精霊との契約を願ってやってきたということだ」

 マークスの説明を聞いているユーマの隣で、マリーは俯きながら自分のスカートを強く握っていた。


 自分のために森にやってくることになり、その途中でアンディが怪我をした。その事実は彼女の肩に重くのしかかっていた。


「マリーはどうやら魔力がかなり強いようですね。なるほど、そこらの精霊ではその魔力を受け取り切れないということか……となれば、強い精霊を選択するのは当然のこと。しかし、領主とその娘が来るにしては護衛の数が少ないのではないですか?」

 二人の力量だけの問題ではなく、魔法しか効かない相手が出てきた時にどうするのか? 先ほどのように怪我をした時にどうするのか? そう考えると無謀と言いざるを得ない。


「はは、ユーマ殿はなかなか痛いところを突いてくるな。私は領主と言ったが、本当は次期領主で今はまだ父に家督があるのだよ。父に相談すれば可愛い孫のために戦力を出してくれるが、父は別の国に行っている。マリーはあと半月で十四になってしまう。二度目の四がつくまでに契約しなければならないという決まりがあるのだよ」

 だから、祖父である現領主を待つわけにはいかなかった。


「ちなみに、契約に向かうのが遅くなった理由は?」

「その、今はこうやって外にいますが私は身体が弱くて、先月まではずっとベッド生活だったのです……」

 申し訳なさそうにマリーが言う。その手は小さく震えていた。


「なるほど、それで今のマークスさんがすぐに動かせる戦力が二人だけだったということですか……」

「いや、そこは私の意地のようなものもあってだな。領主でない私が領地の戦力を使うことを固辞したのだよ。今となっては素直に聞いていればよかったと後悔しているよ」

 マークスは悲しそうな笑顔でユーマに返答する。


「お父様……」

「「旦那様……」」

 しんみりとした空気が場を支配する。


「わかりました、俺も一緒に行きましょう。俺はただの旅人、戦力として使っても問題はないでしょう?」

 ユーマは立ち上がると笑顔で言った。その笑顔は、この場の空気を吹き飛ばす一陣の風を呼んだ。


「俺の力は熊との戦いで見てもらったとおりです。精霊の居場所に行くまでの護衛を請け負いましょう」

 その言葉にマークスたちも立ち上がる。


「ユーマ様!」

 強いユーマが来てくれるのならとマリーは目を輝かせる。


「いいのかね?」

 神妙な顔で質問するマークスに対して、ユーマはただ笑顔で頷いた。


「ユーマ殿、我々が不甲斐ないがゆえのご助力……感謝します」

「ユーマ殿と一緒ならどんな魔物が相手でも安心だな、頼むぜ!」

 騎士二人の心もガッチリとキャッチしているため、ユーマに対しての不満はなかった。


「それなら、早速……その前にマリー、ちょっといいかい?」

「えっ? は、はい……」

 ユーマは彼女の近くに立つと頭の上に手を置く。


「ふ、ふえ?」

 思ってもみないユーマの行動にマリーは可愛い声を出して驚いてしまう。


「ユ、ユーマ殿、なにを!?」

 マークスも娘の頭に手を置くユーマの行動に困惑している。


「大丈夫、大丈夫。収納、”疲労”」

 ここまで笑顔で元気に振る舞っているように見えたマリーだったが、ユーマはところどころで疲れた顔を見せているのが気になっていた。

 その理由に関しては、先ほどの『つい先日までベッド生活だった』という話から推測は用意である。


 まだ体力が完全には戻っておらず身体は疲労に包まれている。

 にも関わらず、この少女は心配させないように隠そうとしていた。


「えっ、す、すごいです! 身体が軽いです!」

 マリーはまるで羽が生えたかのように、身体が軽くなったことに驚いて、その場でくるくる回ったり、軽く跳ねたりしていた。


「主役が疲れていたんじゃ契約もあったもんじゃないからな。さあ、行こうか」

 ユーマは先頭をきって森の中へと入って行こうとする。今の魔法について追及されないようにという思い、そしてマリーの負担が少しでも少ないようにと考えての早めの行動だった。


「はい!」

 そのすぐ後をマリーが元気よくついて行く。


 ここまで驚かされっぱなしのマークスたちは、まだまだ驚かされるのだろうなと苦笑しあうと二人の後に続いていく。


「ところでユーマ様は赤き精霊の居場所を知ってらっしゃるのですか?」

 足取りに迷いが見られなかったため、マリーはそんな質問を投げかける。


「あー、大体はわかっているよ。しろ、いや、本で読んだことがある。確か、北にある泉に力ある精霊が集まるとかって」

 一瞬、城で読んだ本で見たと言いそうになったが、無理やり言葉を修正する。


「なるほどです! ユーマ様はやっぱりすごいですね!」

 戦えば強い。見たことのないような魔法を使うことができる。身体から疲れをとってくれた。更には博識であるユーマに対して、マリーは恋慕とも憧れとも尊敬ともいえる、それらが混ざった気持ちを胸に抱いていた。



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