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第一話


 西条高校二年B組の生徒たちは、その日教室から姿を消した。地球上のどこでもない、異世界のとある国に召喚されていた。


 最初のうちは全員混乱していたが、国の王によって説明がなされ徐々に落ち着きを取り戻していく。


 王の話では、生徒たちは勇者として召喚されたとのこと。勇者とは魔王を倒すための存在であり、召喚された勇者には特別な力と称号が与えられる。


 事実、今回の生徒たちも剣聖、聖女、賢者、槍聖などの珍しい称号得ており、その能力に付随して特別なスキルや魔法が使うことができる。


 今回も彼らは魔王討伐のために召喚された。この世界は魔王の配下によって苦しめられているとのこと。


「俺たちには戦う力がある! 困っている人たちを助けようじゃないか!」

 クラスのリーダー的存在である、クラス委員の言葉は、他の生徒たちの心を鼓舞してやる気にさせていた。


 その中にあって、進藤勇真しんどうゆうまだけはその例から漏れていた。

 彼は身長、体形ともに平均的、勉強はそれなり、趣味は読書に散歩と別段目立った存在ではない。


 そんな彼は一連のやりとりを冷めた目で見ていた。


 その理由は彼だけが特別な力を持っていないためである。

 ゆえに、盛り上がりが落ち着いた後、他の生徒たちに見守られる中、彼は王の御前に立っていた。


「貴様、頭が高いぞ!」

 これは王の隣に控えている大臣の言葉だった。この一言からも、他の生徒たちとは異なる扱いをされていることがわかる。


「よい、彼には馴染みのないことなのであろう。それにいくら大した力を持っていないとはいえ、こちらで召喚した者だ。そこまで厳しくせんでもよいだろう」

 厳しい大臣に対して、王は寛容な態度でユーマに笑顔を向ける。その言葉の中には棘が含まれている。


「ユーマといったな。お主は戦う力がなく、収納をする魔法が使えるとだけ聞いている」

「はい、その通りです」

 ユーマは感情を表に出さず、ただ返事をする。内心では王の笑顔の裏側に何かあるのではないかと訝しんでいる。


「つまりマジックバッグと同じ能力ということだな。そして、他の勇者たちにはマジックバッグを配布している。お主にはいらんな?」

 ニヤリと笑う王の表情には嘲りが含まれていた。

 マジックバッグの現物はクラスメイトが既に持っていたが、アイテムを外見以上に収納することができる特別なバッグである。


「はい、自分には収納魔法がありますので」

 しかし、王の言葉や態度に反応することなく、ユーマはあえて爽やかな笑顔で返事をした。


 一見すれば穏やかなやりとりだが、二人の間には見えないバチバチとした鋭いやりとりがあった。


「なるほど、その能力では戦うのは辛いであろう。戦闘は他の勇者に任せてお主は城でゆっくりしていると良いだろう。誰か、部屋に案内しろ」

「ありがとうございます」

 王に感謝の気持ちを伝えると、ユーマは個人の部屋へと案内されていく。しかし、ユーマが頭を下げ、再び上げた時に王がニヤニヤと笑っていたのを彼は見ていた。


「ちっ、あいつだけ戦わないのかよ」

「まあ、雑魚能力じゃしょうがないだろ」

「いても足手まといになるだけだしねえ」

「弱者に用はない……」

 これはクラスメイトの言葉である。彼らはそれぞれが戦いにおいて重要な能力を持っており、持たないユーマのことを、そのほとんどが見下していた。


 それに気づきながらもユーマはなるべく刺激しないように笑顔でペコペコと頭を下げて、案内に続いて移動する。


 案内されたのは城内でも外れにある、長らく使われていなかった元倉庫だった。申し訳程度にベッドが設置されてはいたが、こちらも長らく放置されておりボロボロである。

 更には、ここまで案内してくれた兵士は扉に外から鍵をかけていった。


「なるほどな。こういう扱いになるってことか……」

 案内役がいなくったためユーマから笑顔は消えて、素の表情になる。利用価値がないとわかると、極最低限の保証までしかしないというわかりやすい対応だった。


 しかし、これはユーマにとって都合のいい状況だった。


「これなら、知られずに能力を確認できそうだな……収納、”埃”」

 何ができるかわからない。ならばとにかく自分ができることを試そうとしていた。


 最初に埃を収納しようとした理由は単純に埃っぽかったためであるが、右手を前に出して発動された魔法は一瞬にして部屋の中に舞っている埃を収納した。


「……すごいな。これは色々使えそうだ!」

 自分の魔法のもたらした結果にユーマはニヤリと笑う。王や大臣、そしてクラスメイトたちが見下したこの魔法の持つポテンシャルに気づき始めていた。


 そこからは部屋にこもって魔法を繰り返し試して、効果を確認していく。


お読みいただきありがとうございます!

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