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序章九話 決意

「……別に」

「嘘だー、拳銃を見詰めていると自殺しようとしているようにしか見えないよ?」


 何のために一人になりたい俺の前に来たんだか。

 座る気配もないし、中へ戻る気配もない。純粋に話をしに来たのか。そうだとすれば男は座ったままで、女は立ったままでってカッコ悪い状態で話をすることになる。……はぁ、仕方ないか。少し移動して場所をあけてやろう。


「ん? 座っていいの?」

「勝手にすれば」

「じゃあ、遠慮なく」


 座るのなら勝手に座って欲しい。

 ってか、かなり間をあけたのに詰めてくる理由が分からないんだが。なんだ、身長の割にはシリがでかいとかなのか。言ったら殴られそうだから言わないけど、離れて欲しいって気持ちではある。


「……んで、何の用だ。優奈の見張りの予定はないぞ」

「うるさいなー。見張りじゃなくて話をするのなら悪くはないでしょ。どうせ、零のことだから三時間は暇だってぼーっとしているだけなんだし」

「……否定はしない」


 逆にこんなにやることの無い世界で何をしろというのか。思春期の男が一人、それも女や男友達が近くにいる中で……卑猥なことしか思いつかないな。それなら余計に優奈がいられたら邪魔でしかない。


「ん? どうかしたの?」

「別に……」

「ははーん、私に見蕩れちゃったな」


 それはないな、俺は自分のやりたいことをやらせてくれる女の人にしか興味が無い。声優になれないのならヒモになるだけだ。売れるためなら頑張るが売れなければただの生きる価値もないニートでしかない。


「お前さ、それで見蕩れていたって言ったらどうするつもりなんだ? 俺だから何も言わないけど普通の男なら勘違いするぞ」

「……零以外に言うわけないじゃん」

「あっそ」


 面倒だな、俺にそんな目を向けないで欲しい。

 優奈を女の子として見ていないとは言わない。だけど、俺よりも良い奴がいるだろ。二人以上になることは好きじゃない。離れる時が怖くなるから大切だと思ってしまえば俺の生き方が間違っているって直そうとしてしまうから。


 直すのは別に構わない。だけど、その直した後が正しいなんて限りはしない。果たして直った後が治る前よりも悪くて、傷付けてしまえば俺はどんな顔をすればいいんだろうか。だから、俺は変わりたくなんてない。今のまま、クズのままで生きていたい。


「あのさ」

「……何?」

「私って強いのかな」


 それを俺に聞くか。

 優奈が強いかどうか、それは戦っている姿を見ていないから分からない。少なくとも俺のようなクソ雑魚ではないのは確実だ。元の数値が良ければいくらでも強くなれる。職業だってあるんだからな。俺を表すかのような無職とは違う。


「……俺よりは強いよ」

「それならさ! 私でも零の手助け出来るかな?」

「……知らない」


 何を言いたいんだ。人の考えを読む、そんなことを高校に入ってから鍛え続けていたはずだ。なのに優奈の意図に気がつけない。何を言いたくて俺にそう聞いているんだ。ただの寄生虫でしかない俺の手助けをする……わけがわからない。


「私ね、零に言われてそうだなって思ったんだ。ほら、弱いのに前線に立って戦ってくれた零と、数値はいいのに後ろで立つだけの私じゃ天と地ほどの差があるし」

「……ううん、優奈がいてくれるから陽菜だって頑張っているんだ。整備だってやってくれたから俺も秀も戦いに行けたんだ。いるだけで意味があるんだよ」

「でも、それじゃあ、零は納得しなかった」


 心臓を掴まれたような感覚。

 痛い、辛い……自分の心を読まれたことがここまで嫌だなんて。今まで思いやしなかった。本質的な部分が優奈に、友達に知られるのが怖くて痛くて、それでいて辛い。


「私は優奈なの。零は零でしょ。いるだけで皆が大切にしてくれるのは知っているよ。だけど、必要とされる大きさが違うんだ。私にとって零はかけがえのない存在なんだよ」

「……そこまで大きな存在じゃないよ、俺は」

「そう言って影で助けてくれたよね。先輩に言い寄られていた時だって……嬉しかったんだ」


 それは一緒に帰れないことが嫌だったから。

 中学で皆でいられることが楽しかった俺から、その一部である優奈を取られることが何よりも嫌だったから……俺のワガママでしかない。そこまで大それた理由なんてありはしない。


「皆ね、零のことが好きなんだよ。だから、死んででも零を護ろうとする。私も同じことが出来るかなって」

「……知らない」


 そんな先のことなんて俺が分かるわけがない。

 もしも分かっていたのなら高校進学でバラバラになることを選んではいなかった。皆を引き止めてでも同じ高校に進んでいた。話していたのなら大和や秀なら付いてくるだろうし、優奈や陽菜だって意地悪く笑いながら……。


「うん、それなら頑張る理由になるよ。零でも分からないなら可能性があるってことだからね。零は弱いんでしょ?」


 嫌な質問をしてくるが素直に首を振る。


「私が、優奈が零を護るよ。零が優奈達を大切にしてくれるように優奈達も零を大切にする。帰るのなら一緒に帰りたいからね」


 なんで……皆、こんなに笑顔が綺麗なんだ。

 俺の本性を知ればそんなことを思わなくなる。俺のような不良物件を皆に押し付けていいのか。それだけ皆は良いヤツら過ぎる。俺のワガママや甘えで皆を苦しませていいのか。


「……弱い優奈じゃ出来ない」

「それなら強くなるよ。明日から見ていてね。いや、違うかな。零、優奈のことをしっかり見ていてください。最愛な優奈のことを」


 冗談で言ったのに本気にしているのか。

 いや、それでもだ。優奈が俺を守るなんて普通に考えたら出来っこない。強くなるなんて口先だけかもしれない。それでも弱い俺よりも強くなれるんだろう。優奈の頭を撫でて笑ってやる。


「それじゃあ、俺も優奈の隣にいれるようにしないとな」

「ずっと見ているから」


 握り拳を作って笑う優奈を弱いとはもう言えなかった。きっと強くなるだろう。四人が肩を並ばせて強くなる中で俺だけが停滞する。ただの邪魔者でしかなくなるかもしれない。それならそれでいいんだ。俺は俺で助けることが出来ればいい。本音を言えば皆に迷惑をかけたくないからな。


「……まだ一時間しか経っていないのか」

「充分じゃない? 結構、話したと思うけど」


 肩を寄せ合いながら話をしていた。

 月光はかなり強くなったし敵が出そうな気配もあった。それでも何も起こらずに今の今まで優奈と話をしていた。中学を出てからのこととか陽菜とのこととか。知らない高校の話を聞くのはかなり面白かった。


「もう話題がないんじゃないか?」

「うーん、あるよ?」

「……さすがは陽キャの女子」


 俺のようにポンポンと話題が出ない人とはわけが違うな。なおさら、優奈の行った高校の男子からしたら、今の二人っきりの状況が唾を飲むほどに羨むものだろう。俺はただ座っているだけなのに肩に頭を乗せてきたりするんだから。このまま任せてもいいが優奈に話をさせてばかりなのは申し訳がないな。何か良い話題がないか……。


「何を悩んでいるの?」

「うーん、俺の話もしたいと思ったけど特に目新しいことがなかったんだ」

「気にしなくていいのに。優奈は一緒にいられればそれでいいよ」


 また男子が勘違いしてしまうことをスルッと言うな。俺も一人の男子なんだっつーの。マジで俺にそう言うのは意味が分からなさすぎる。好きなんだとしたら何で好まれているのか全然、分かりはしないし。


「あ、一つあるわ」

「ん? なに?」


 話題というか悩んでいたことだ。

 もしも心が通じるのなら一回だけリロードして欲しい。お前は名前が欲しいか。……すぐにリロード音がしたから心でもあるんだろう。それならネーミングセンスのない俺よりも優奈と考えた方がいい。


「にゃっ!?」

「あ、悪ぃ。コイツに名前を付けてやろうと思ったんだ。ニューナンブなんて呼びづらい名前は嫌だしな。それにアーティファクトになった時点で元の無機質な道具とは違う」

「な、なるほど。……撃たれるかと思ったよ」


 誰が撃つか、そんなサディストじゃねぇよ。

 優奈の中での俺ってどんな感じなんだろうな。もしも虐めることが好きなサディストだと思われているのなら、それはからかうのが好きなだけのお子様って改変しておきたい。いや、お子様でもねぇな。改変出来るのならそこだけ消しておきたい。


「……撃たれたいのか?」

「ちょ、ちょっと痛いだけなら……」

「マゾかよ、気持ち悪……」


 嘘でもそんな言葉を聞きたくなかった。

 優奈の隠れた本質だとしてもマゾなのは……サディストよりはマシな気がしないでもないけど、どちらにせよ、知りたくないな。仲のいい女友達が変態だなんて……。


「零にならいいよ」

「だから、しねぇって……」


 やるのならもっと楽しい虐め方をする。

 殴って血を流させるのは趣味じゃないからな。やるのなら意地悪で済むことをして相手の可愛いところを引き出すだけだ。苛め本体が好きなわけではない。


「それで、なんかいい名前ないか?」

「えー? そうだなぁ……カッコイイのと可愛いのどっちがいいとかをまず決めたら?」


 なるほど……コンセプト決めってことか。

 いっそのこと笑い目当てでつけるのもありか?


「ユーナとかにしてみるか?」

「愛の告白?」

「ちげーよ」


 そうだった、本気でそう思う奴だった。

 面倒だなぁ、名前決めなんて柄じゃないのに。


「もしも子供が出来たら優奈は何て付けたい?」

「れ、零との子供か……」

「いや、誰が相手でもいいけど」


 俺との子供って限定したらレイとユウナから文字って付けそうだからな。だから俺で限定しない方が付けやすいと思うんだが……この感じだと俺との子供で考えているんだろうな。


「……零の子供ならレーニンとか?」

「やめろ、なんか色々な意味でそれはヤバい」


 文字っただけだとしてもマジで無理だな。それはそれで呼びづらいし。リロードお願い、レーニン様って呼ばなきゃいけないとか心身疲労が激しくなるわ。


「ナウイ」

「それは違う意味で捉えられるから無しで」

「だよねぇ……」


 否定ばっかりで申し訳ないけど優奈もここまでネーミングセンスがないとは。ただ本気で考えてくれる当たり俺のことのようで嬉しい限りだ。後で少しだけ優しくしてやろう。


「ニーナ」

「……え?」

「略してニーナとかはダメかな?」


 ニーナ、ニーナか……かなり呼びやすい。

 ニューナンブの最初の文字を取ってニーナ。俺ならかなりいいと思うが。日本なら感じで名付けるから新奈とかになるのか。まぁ、異世界なら外国人みたいな名前だ。カタカナで良いだろう。


「そうだな、ニーナ! それでいいな! 良かったらリロード音で示してくれ!」

「うん! 気に入ってくれたようで良かった!」


 しっかりとリロード音で返答が来た。

 そんなところで岩の扉が開いて大和が出てくる。笑いながら俺達を見てくるのは何か理由があるのか。一応だけど交代を伝えに来たんだと目星を付けてニーナを腰に差した。


「随分と仲がいいな」

「付き合っているからね」

「勝手に決めるな」


 危うく適当なことを言い出した優奈のせいで付き合っているって勘違いされそうになったが、大和と場所を交代して中に入る。五つの毛布が川の字で並べられていて笑えてくる。そのうちの秀の隣が抜け出したような後があるし大和が寝ていた場所だろう。


「零はここだよ」

「ちょ……」


 優奈に引っ張られて倒された場所は優奈と陽菜の間だった。一応は陽菜と大和の間に小さな石の壁が出来ているのに……俺がここでいいのか? とか考えている間に背中を抱きついて離さないし。このまま寝たら面倒だけど……。


「安らぐぅ……」

「ふっ……」


 気持ちよさそうな声を聞いたら離れられないか。

 面倒なことが起こるのは承知で寝させてもらおう。俺も結構、疲れた。陽菜と優奈の良い匂いが鼻を通って……ダメだな、本当に眠気を誘われてしまう。陽菜には明日、謝っておこう。今日だけは……許してくれ。

作者の中で優奈は「馬鹿だけど素直な良い子」というイメージで書いています。前話であったように陽菜は「変わっているけれど頭が良く仲間思い」といったイメージですね。秀と大和は暑苦しいイメージです(笑)。


次回は二十九日の予定です。

お楽しみに!

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