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序章八話 整理

「……こんなものか」


 だいたいの武器の整理は終えた。

 一番に良質な鋼の剣は優奈に渡すことが決まっていたので、俺は少し質の劣る鋼の剣を貰うことにした。追加で投げることも出来るナイフを五本だな。ナイフ自体は合計で四十本はあったが陽菜の投擲用に多くを残しておいた。杖もあったけどMPがゼロになった時用で多めにあった方がいい。俺は拳銃があるから異論はない。


 次に防具とかの装飾品だ。

 まず服とかはあったらしいけど燃やしたらしい。古着だとは言え汚らしい盗賊達のお古だ。それなら稼いだ時に新調した方がいいと考えたらしい。その点で言えば俺達の来ている服を陽菜が生活魔法で綺麗にしてくれるらしいから、これも異論はない。ただ問題もある、それは装飾品などに関してだ。


「マジックバック、下級盗賊が持っているにしてはかなりの物だ」


 大和が出してきたリュックサックは買いたてのようにしっかりとしていて、その品質から見ただけで女が大切にしていたのが分かってしまう。今までに見ていた戦利品の中でも飛び切りの最高級品だ。


「……これは街に行ってから問題が起こりそうだな」

「そうだな。今のところは後衛を任せる零に渡そうって話になっていたんだ。ヒデもそれで構わないだろう?」

「ああ」


 全員が俺に渡そうとしているのか。

 いや、普通にいらない。俺に渡す理由もどうせリーダーだからとかだろうし。それにもしも後衛に渡すのなら俺じゃなく陽菜でもいいからな。少しだけ顎に手を置いて考えた振りをしてみる。どう言えばこれを俺じゃなく陽菜に自然と渡せるか。


「陽菜に渡そう」

「いや、その陽菜からの願いだ」

「違うな、俺が持つメリットが少なすぎる」


 今は俺が持っていては意味が無いんだ。

 それを最もらしく秀と大和が納得するように話す。難易度が高すぎるが出来ない話ではないだろう。まずは……どれを話そう。


「そうだな、例えば俺は能力がない。逃げる時に一番に逃げやすいのは最後衛である陽菜だ。ましてや魔眼もあるからな」

「それなら零でも変わりないだろ。拳銃で威嚇すれば逃げる隙は作れる」

「それが人ならば? 俺は人殺しをしたいわけではない。逃げるとすれば足を撃つだろう。でも、その間にラグが出来てしまう。陽菜の魔眼ならば予想だけど視界に収まっていれば使えるだろうから範囲も申し分ない」


 少なくとも俺は強いわけじゃないからな。

 それなら他の強い人に任せた方がいい。俺の拳銃は本当にアニメ程度の範囲しかない。リコイルが上手くいったとしても倒せるのは四人まで、つまり範囲が狭すぎることと本体が弱すぎることが俺の最大の弱点だ。


「強い人に持たせるにしても前衛を立つ大和やヒデ、優奈は破く危険性があるからない。俺も弱いから持たない方がいい。それなら陽菜だ」


 本音を言えば持ちたくない理由は面倒だから。

 俺以上に陽菜の方が効率がいいのは確かなことだし、襲われてやられる可能性が高いのは俺だ。これ一つで身を立て直すことは出来るだろうから、そんな高価なものを俺が持つのはリーダーだからでは荷が重すぎる。


「俺をリーダーとするのなら俺よりも陽菜に持たせてやれ。言いたいことがわからないわけではないんだろ?」

「……はぁ、ワガママなリーダーだな」

「悪かったな、元からだ」


 とりあえず大和が陽菜にカバンを渡しに戻っていった。金の入った小袋は置いたままにするあたり大和らしい。こういうところで信用しているって言いたいんだろう。俺もこの信用に見合った行動をしなければいけない。


 鞘をズボンに差す。ベルトとズボンの間に挟めているだけだけど案外、安定するものだ。そこに鋼の剣をしまって足にポーチを付けた。そこにはナイフを入れておいて、これで俺の準備は万端だ。拳銃だけで戦わなくても済む。


 小袋は秀に渡して俺達も後を付いて行った。

 その時には陽菜はリュックサックを背負っていたし石で円も造られていた。真ん中には折れた木を入れているので燃やすところだったらしい。ポンポンと大和が岩を叩いたので遠慮なく座らせてもらった。


「お疲れ様」

「そっちこそ」


 隣に座ってきた優奈がそんなことを言う。

 面倒なので労っている振りをして話を区切れそうな返事をしておいた。上手い具合に優奈の期限を損ねることもなく喜んでくれている。俺の本心を知ったらギャーギャー騒ぐんだろうな。


「陽菜、一つだけ頼めるか?」

「うん? 何をして欲しいの?」


 先に座っておいて頼むのは悪いとは思ったけど、この後で重要になりそうなことだ。それに俺で出来ることならやっているしな。洞窟の出口を指さして笑いかけてやる。


「魔法でここを塞げないか? 燃やすから上の方を少しだけ空けておいて貰えると助かる」

「あー、オケオケ。任せて」


 洞窟の出口の地面から岩が隆起する。

 すごいな、魔法ってこんなことが出来るのか。ましてや陽菜も異世界に来てから時間はそう経っていない。これだけ出来れば戦闘でも簡単に活かせるだろう。なぜか、扉も付けてくれたみたいだけど……ここまで出来るのか。さすがは魔術師。


「これでいい?」

「想像以上にいいよ」


 喜んでいるのかは分からないけど首を何回も上下に振っているから、悪い意味は無いだろう。とりあえず、この後はどうするのか分からないから静かに皆の方を見る。


「燃やすよ」

「……すごいな、こんなに燃えるのか」

「生活魔法で木が燃えやすいようにしておいたからね。秀は肉を分けておいて、優奈は結界の準備をお願い」


 結界……何に使うのか分からないけど陽菜の頭の中にはイメージがあるんだろう。大和も座ったしやることがないんだろうか。何かやって欲しいのなら言われたらやるんだが、何分、家事のようなことはあまりしたことがないからどうすればいいか分からない。


「こんなんでどうかな」

「いいよ、それでは上に生肉を置いていきます」


 アホすぎる……と思ったけど肉がだんだんと焼けていく。俺が知らないだけで熱の伝導率がいいのかもしれない。あまり厚くはないから簡単に焼けきってしまう。そんな中で陽菜から棒を二本、渡される。つまりは箸の代わりだろう。


「出来たー!」

「んじゃあ、異世界に来てからの最初の食事としようか」


 しっかりと陽菜は全員分の箸を作っていたみたいだ。箸と呼ぶには少し無骨な気がしないでもないけど、手で食べるよりは抵抗が無くていい。陽菜のことだから綺麗にしてから箸にしているだろうしな。


 肉を口に運ぶ、ゴブリンの肉と知っていたから構えていたが悪くは無い。美味しいかと聞かれれば普通にスーパーで売っているような牛肉のような味だ。それを美味しいと思うかは人それぞれだと思う。


「調味料が欲しくなるな」

「街に行ったら一番に必要そうだな」


 確かに物足りない気がするよな。

 不味いとは思わないが肉本来の味だけなら食欲をそそられはしない。ただ、これ以外に食べるものもないので食べられるだけ胃に運ばせてもらう。街に着いたら宿と食に関してのアレコレを見て回らないとな。運良くマジックバックを手に入れたことだし。


「零!」

「ああ?」

「あーん」


 雛鳥か何かなのか。

 口を開けてあーんとか言われてもする気がないんだけどな。それに胡椒とかがあれば肉を丸めて中に詰め込めるというのに……からかえないのなら恥ずかしいことをするわけが無い。何かいい方法がないかな。


「ほれ」

「あー……え?」

「食わすか、馬鹿」


 古典的だけど効果的な一手だと思う。

 純粋に口に運ぶ瞬間に目を閉じたから自分の口に運んだだけだ。ガギンとか本当にもらえる気でいたんだろうな。歯と歯が本気でぶつかる音がしたし……大成功でいいだろう。めちゃくちゃ睨まれているけどな。


「いいじゃん! 減るものじゃないし!」

「あいあい」

「ん」


 二回目は普通にしてあげる。

 これが俺なりのイタズラだ。一回目は本気で怒らせるつもりでやる。優奈はその通りにしてくれるし、何より望んだことを普通にやれば馬鹿だから忘れてくれるしな。そういう点ではからかいやすくて面白い奴だ。


「ありがと、おいひー!」

「そりゃ良かった」


 ノリとか色んなことで自分達の価値を他人が評価するだろう。それって本当に大切な評価なのか。俺は少なくとも自分と波長が合うからこうやって皆と絡んでいる。カラオケだって高校に入ってから感じたことの無い楽しさを思い出させてくれたから皆といたいって思えた。


 こういう笑顔を見るのは嫌じゃないな。

 ただ誰かを蹴落すだけの学生生活はつまらない。どこかで知られた中学での出来事も、どこかで知られた交友関係も……そんなことで俺の立ち位置が決まるのなら行く意味もないだろう。仮面を被っただけの人達に笑えるほど優しくなんてない。


「……ご馳走様」


 ゴブリンリーダーを二体、食したところで夕食を終えた。小さいし食べられる部分が少ないから多かったとも思えない。火が大きく燃えて火の向こうに座る秀の顔を揺らがせる。


「もう寝ようか」

「そうだな、入口の番とかはどうする?」


 入口の番……いるかと思わなくはないけど形式上いた方がいいだろう。腕時計を指さして見せつける。こういう時に日本で使っていた道具が使えるんだな。


「三時間交代で入口付近にいればいい。優奈と陽菜は眠っていてくれ。ここら辺は男三人の仕事だ」

「申し訳ないよ!」

「はいはい、ゆっくり寝かせてもらいます」


 親友のはずなのに対象的な二人。

 優奈は馬鹿だから気遣いとか関係なく本当に申し訳なく思っているんだろう。陽菜はどうせ俺が言い出したから曲げないって分かっていて寝るって決めている。まぁ、なんだかんだ陽菜の仕事量が俺達よりも多かったからな。疲れているっていうのもあると思う。


「優奈、そういうことは戦えるようになってから言ってくれ」


 失敗した、そう思った時には言い切っていた。

 悲しそうな目をしている優奈を見て本当に後悔してしまう。こんな顔をさせるために寝てくれと言ったわけではなかった。ただ休んでもらいたかったから言っただけなのに……。


「……悪い、でも、そういうことだから。最初は俺がやるよ。次は大和な」

「分かった」


 大和から返事はあった。

 静かに岩の扉を開けて外へ出る。真っ暗な空間に月明かりだけが注いでいて神秘的だった。それなのに綺麗だとは思えない。……悲しそうな顔をさせてしまったんだ。高校にいる時のような調子で言ってしまった。優奈は優奈なりに頑張ってくれたというのに。


 後になれば他に良い説得の仕方も思いついたものを……なぜ、本当に言いたい時に限って意地悪い俺が出てきてしまうのか。純粋に「整備を頑張ってくれた」って言えば優奈は笑いながら休んでくれたはずだ。


 腕時計のストップウォッチを作動する。一時間までは測れるからそれを三回だ。そこで交代すればいいだけ。作動と同時に木の近くにあった石に腰を掛ける。手で顔を覆い隠す。優奈の顔だけが頭から離れてくれない。


 顔を振るう。拳銃を取り出して月光にかざして見つめた。ダメだ、今は忘れよう。明日にでも話せばいいんだから。無意識な言葉の刃が人を傷付けるのは身をもって理解していた。俺って本当にクズだと思う。


「何、思い詰めた顔をしているの?」


 小さな声がした。

主人公自体は少しだけ屑な考え方をしますが人として終わっているほどにはしないつもりです。コンプレックスをいくつも抱えているからこそ、考え方が少しだけひん曲がっているという感じですね。そこら辺も話の中で詳しく書いていこうと思います。


次回は二十七日の予定です。

お楽しみに!

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