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序章七話 拠点

「いい感じの穴だな」

「言葉的に馬鹿っぽいな」


 多分だけどここだ。俺達が丘だと思って向かっていた場所の反対側、そこにぽっかりと穴が空いていて洞窟になっている。中にランプとかも飾られているので盗賊達の根城としても使われていたんだと思う。


 中に入る、汚い毛布が三枚と少し離れた場所に綺麗な毛布が二枚ある。この様子だと女だけ寒さとかも考えて綺麗なのを二枚とっていたんだろう。かなり臭いな。まぁ、ムサイ男が多くて女が一人だったから、別に分からなくはないけど。それに今から俺達のものだ。直せることは気にせずに自由に使わせてもらおう。


「……よくこんな不衛生な場所で生きていたな」

「日本での感覚と同じでいたら生きていくことは難しそうだ」


 天井から吊るされた干し肉にはハエが集っていて食べる気になれない。替えの服とかもあるわけではないし何よりも火とかも盗賊達にはなかったんじゃないか。だってさ、キャンプとかの後があるわけじゃないし針みたいので肉を吊るされているだけ。焼くってことも出来ないなら本当に雨避け程度の拠点だったとしか思えない。


「陽菜と優奈は拠点の整理をお願い。大和は二人の護衛と指示を頼むよ」

「まぁ、これだけ汚ければ仮拠点でも整備が必要だよな。俺に任せておけ。……それじゃあ、零と秀はどうするんだ?」


 俺と秀は……何をしようか。

 ぶっちゃけて言えば優奈と陽菜は綺麗好きだから整備を任せたし、大和も筋肉隆々だけど元整備委員とかいう見た目に合わないことを好んでやっていた。俺や秀は割と部屋が汚いから片付けなんて性にあわないし……。


「ゴブリンでも狩ってくるよ」

「おー、それはいいな。なら、今日のご飯は任せるわ。どうせ、遠くまで行くつもりはないんだろ?」


 首を縦に振る。当たり前だ、仮拠点が出来たのであればそこを中心に開拓を進めていく。仮拠点を使えるようにするために整備も頼んだからな。盗賊の一件でゴブリンリーダーの死体を置きっぱにしていたのもあって、夜のご飯はない。これから暗くなることを想定すれば外を歩くのも怖いからな。


「……俺は零の配下だからな。頼りにしているよ、リーダー」

「俺にリーダーの素質はないけどな」


 頼られても困る。そのうち俺の才能の無さに呆れられるだけだ。何かが出来るということは誰かからの好意に繋がる。でも、それがどこまで出来るかなんて分かりやしない。もしかしたら最初だけの才能かもしれない。本当は少し物覚えがいいだけなのかもしれない。


 少しだけ悲しくなるな。その点で言えば俺なんかよりも秀の方が才能の塊だろうに。拳銃を構えて洞窟を出る。悲観に暮れている時間はない。早く狩りを終えてから夜空を眺めて、その時に悲しみを拭えばいいのだから。本当に生きるって面倒の塊だ。


「どこに行く?」

「近場の木が生い茂っている場所だな。とりあえず狩ってみて陽菜に鑑定を頼めばいい」


 俺が行く必要は本当に無いと思うけどな。

 秀は本当のチート持ち、対して俺は雑魚でしかない。全部を秀に任せたとしても全てやりきってみせるだろう。本当の才能があるから秀には勇者とかいうヤバそうな職業がついているわけだし。その点、俺は無職か。何となく俺らしい。


「……三体はいるな」

「どうする? 俺は戦えるが」

「いらない」


 三発、撃ち込む。

 やっぱり、二発目まではあまりリコイルの変化はない。あるとすれば撃った時の反動くらいだっていうのに三発目になった瞬間だ。いきなり横反動が追加されるからブレてしまう。これもアーティファクト化によるデメリットか何かか。それでも四発目があるから向かってくるゴブリン、もとい馬鹿の頭を撃ち抜けばいい。四発って少ないようで案外と多いな。


「さすがだ」

「この程度で褒めるな。ほら、援軍が来たぞ」

「分かっているよ」


 陽菜がいないせいで銃声に寄ってきたゴブリンリーダー。それもゴブリンの上位種なのに五体も出てきやがった。雑魚も数体いるしな。……能がない割には固まってゆっくりと向かってきている。俺の対策か何かか。


「俺もカッコいいところを見せないと、な」


 ただ秀は敵を見つめているだけ。

 歩くことはせず、少し距離が詰められた時に右手を前に突き出して笑う。


「顕現、千本桜」


 千本と呼ぶには少し足りない気がするが固まったゴブリン達を囲むように剣が現れる。逃げられないように剣の刃先だけがゴブリン達に向いており秀が手を下ろすと同時に剣が中心へと収束する。見ているだけには一瞬だった。……ほらな、これが凡人と天才の違いだ。


「あー、面倒くせぇ。もうさ、お前が全部倒してくれよ。俺いらないじゃん」

「お前がいるからまとまるんだよ。戦闘力だけで判断しないで欲しいね」


 この純粋無垢な笑顔、ここぞという時に使ってくるのは本当に腹が立つ。何人の女をこの笑顔で落としたというのか。とりあえずヒモ願望の俺には必須の能力だな。笑顔の練習は優奈にでも見せてやっておこう。アイツは表情に出やすくて分かりやすいし。


「はいはい」

「お前は自己評価が低すぎるよ」


 当たり前だ、高くて失敗するよりは低く見積った方がマシ。面倒ごとを呼び込まない生き方の一つだ。幸せに生きていくって言うのは簡単に言えて何よりも難しい。夢を叶えるってことの難しさは中学生にもなれば少しずつ理解するように、今までの経験で少しは理解したつもりだ。生きていくことの難しさくらいはね。


「一気に戦う気なくしたわ。そいつらを持って行って帰ろうぜ」

「それなら悪いことをしたな」


 どうせ、悪いとは思っていなくせして。

 こういうところだけは変わらず面倒な奴だ。ゴブリンリーダーを背負って他の魔物は秀に任せる。小さいから俺でも運ぶくらいのことは出来る。さてと、これをどうやって食べるのかな。陽菜任せになりそうだけど。


 秀と横並びに警戒しながら洞窟へと戻る。十数分も経っていないのに夜飯のことを考えなくて済むとは。いや、あれだけの短時間で戦闘を終えたことがかなりすごいな。……一応、秀が仲間でよかったとは思っておく。これで俺に過干渉しなければ尚良いのに。


 戻ると洞窟が少しだけ明るくなっていた。

 音も聞こえているから掃除を終えていないんだろう。果たして戻ったところで邪魔になるだけなんじゃないかって不安になる。そういうところは大和がうるさいからな。俺の部屋をいちいち汚いって指摘するくらいだし。


「あ、おかえりー」

「……ただいま」


 入口付近を掃除していた優奈にそう言われて仕方なく返事をしてやる。見つかったせいでどこかへまた行くってことは出来ないな。これだけあれば他に食べ物はいらないって言われるのが目に見えているし。


「帰ってきたんだ、早いね」

「陽菜、後でこれの鑑定をお願い」


 奥からペタペタと歩いてくる陽菜にゴブリンリーダーとゴブリンの遺体を任せておく。軽く首を振っていたから今からやってくれるみたいだ。俺達は俺達でやれそうなことをやろう。そうなればまずは掃除隊長の大和の元へ行かないとな。


「はぁ!」

「……何をやっているんだ?」


 奥へ進むと地面に置かれた岩を殴っている大和がいた。これも整備の一環……には見えないよな。俺が聞いてようやく気がついたようで振り向いてきた。岩を殴りながら笑顔でいることが少しだけ怖い。


「岩を殴っているのか?」

「あー、砕いていた。火を焚く場所に囲む石が必要だと思って、な」


 そう言われると納得出来てしまう。

 火を焚くにしてもただ木を燃やせばいいってわけではないからな。燃えきった後は灰になるだろうし風が吹けば空に舞う。そこら辺も考えて岩を石にするのは確かに必要なことだ。俺なら絶対に思いつかないな。普通に燃やしていたわ。


 それに毛布も綺麗になっている。この短時間で洗ったのか。その割には湿り気も感じないけど。換気もされているのか臭くもない。最悪な環境から普通の環境になったくらいだ。そのまま寝るのなら地面が固くて寝付けなさそうだけど、逆にそれくらいしか非の打ち所がない。


「さすがは大和だな。これなら拠点として申し分ないよ」

「感謝は陽菜にしてあげてくれ。陽菜の生活魔法とかいうもので綺麗にしてくれたんだ」


 生活魔法か……余計に俺が無力に感じる。

 そう言えば陽菜には魔術師の心得って固有スキルがあったな。魔法全般が得意なのかもしれない。俺のようになぜか覚えられた火魔法とはレベルが違いすぎる。俺も生活魔法くらいは覚えておきたいな。


「分かった、しておくよ」

「後は優奈にもな。俺よりは出来ないにしても頼んだことを全部やりきってくれた」

「……癪だけどしておく」


 アイツは感謝したら変なことを頼んできそうだし極力したくはない。まぁ、それとなく言って変なことを言い出したら秀に回そう。そういう面倒ごとは秀に回すのが吉だ。大和は女性関係には疎いからな。


「何かやることでもあるか?」

「あー、それじゃあ、陽菜が使えそうなものって言っていた道具類をまとめてくれ。俺にはそういうのは分からないからな。説明は俺がするよ」

「石とかはもういいのか?」

「ぶっちゃけ、他に必要そうなこともないからな」


 何も考えていないんだろうけど笑顔が眩しいな。本当に陽キャラの人達は良い笑顔をする。俺なんて笑えば引きつっているって言われるんだぞ。俺にも上手く笑うやり方を教えてもらいたいものだ。


 考えるのも面倒なので一番に近くにある剣を手に取る。盗賊達が使っていた剣より良質だ。それに手入れもされている。こんなにも綺麗なら自分達で使えばよかっただろうに。


「それはな、鋼の剣だ。盗賊達の使っていた鉄の剣よりも固くて強いだろうな」


 ランプの光などで照らしながら眺めていると大和が説明してくれた。鋼の剣ってだけで一気に強そうには思えなくなってしまう。それこそ魔剣みたいな本格的なファンタジーなアイテムかと期待していた自分もいたからな。ただ便利と言えば便利ではある。


「優奈に持たせればいいんじゃないか?」

「ああ、俺と陽菜も同意見だった。後ろに隠れているし戦うには武器がない優奈は、悪いが戦力外でしかない」


 確かにそうだ。俺も同様、弱ければ首を切られるのがパーティだと俺は思う。これはそうさせないための大和なりの優しさなんだろう。いつかは俺も首を切られるかもしれないな。もしそうなら、大和も違う世界に来て考えを変えたってことになりそうだが。


「そんな悲しそうな顔をする意味がわからないな。戦力外であろうと優奈にはやってもらうことはあるからいてもらうぞ。少なくとも自分の身は自分で守ってもらいたくて武器を持たせるつもりだったしな」

「……あー、勘違いしていたわ」


 大和の優しさを誤解していた自分が恥ずかしい。

 それもそうか、大和がそう簡単に人の縁を切れるわけがない。色んな意味で甘く優しい奴だ。どうも優奈のことになると少しだけ自分と重ねてしまう時がある。俺は戦えているけど優奈が簡単に戦えるようになるだろうか。少なくとも俺は簡単に不必要になるだろう。でも、大和と共に最前衛を担える優奈は宝の持ち腐れだ。


「怖いだろうからな、ラウンドシールドって言うんだったか。それもあったから優奈に渡すことを決めていたんだ」

「なるほど、戦力強化が捗るな」


 大和とは違う意味で優奈は強くなるだろう。

 人としての強さを追い求める大和と、ただの優しい優奈が同じ道を歩むとは思えない。それは秀も陽菜も同じだと思う。俺も隣に立てるくらいには強くなりたい。……俺も生きたいから。自堕落に生きていようと死にたいわけでは無い。出来ることなら皆でまたカラオケに行きたいな。面倒だけど楽しかったあの感覚を、もう一度でいいから味わいたいものだ。

今更ながら前話で剥いだ防具とかを使う人がいるのかと不思議に思ってしまいました。剥がれた盗賊達は汚いですし生活していた場所も文化的ではないです。秀とかに……使わせてしまってもいいのでしょうか……?


次回は二十五日の予定です。

お楽しみに!

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