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一章二話 アプリケーション

 少しだけ進んでみる。

 思いのほか道がぬかるんでいてから少し前にでも雨が降っていたんだろう。まずもって俺が転生した世界は俺の死んだ世界と同じだろう。そうじゃないと俺のデータがこの世界にあることがおかしくなってしまうからな。それならばぬかるんでいるってことは俺が死んでから日が経っているか、そもそも死んだ場所とは違う場所なのかの二つに分かれてくる。淡い希望も兼ねて日にちが経っているからぬかるんでいると思いたい。


「ニーナ」


 撃ち込んだ銃弾が何かを貫く。

 ニーナで簡単に貫ける相手って珍しいな。そもそもの話がニーナは強武器だ。でも、この世界に来てから強敵ばかりで強みがあまり感じられなかった。って、転移してきた後の話でうだうだ言っても意味が無いか。こういうところで強いって言うのを再確認しておかないとな。そもそもの話がゴブリンジェネラルを倒しきれたって言うだけでかなりの実力者だろ。分からんけど。


 ニーナで倒した敵を見に行く。

 あー、イノシシですわ。さっきまでの楽観的な考えを盲信することは出来なさそうだ。だってさ、少なくとも俺達がいた道ではイノシシ何て野生の動物は見かけやしなかった。一応、魔物ではないけど経験値は入っているようだしステータスの概念には組み込まれているようだけど。いや、待てよ。イノシシの肉って美味いって聞くよな。ここで夜ご飯を得られたのは嬉しい……って、切る物がないじゃねぇか……。


 陽菜がいれば肉を食べるための箸とかも作ってもらえたのに……ああ、こういう時に限って陽菜のありがたみを知ってしまう。どれだけ俺に欠かせない存在だったのか。頭撫でてあげるから出てきてくれないかな。……そんなことあるわけないよな。俺が勝手に死んでしまって悲しい思いをさせているかもしれないのに……本当に俺は自分勝手なクズ野郎だよ。


「収納完了っと」


 アプリケーションがあること自体はすごくありがたい。物を持って歩かなくていいし何なら制限とかも見た感じなさそう。街に着いたらゴブリンとかは売る予定だし仕事をする時にこの能力は重宝するだろ。例えば、そうだなぁ……異世界ならではの冒険者とかになるとして倒した敵を運ぶ人はかなり重要だ。俺は誰かのパーティに入るつもりは無いからこれだけで俺の負担は減る。


 パーティに入る気がないのは純粋に見ず知らずの人を信用出来ないってだけだけど、まぁ、時には悪意を持って近付いてくる人もいるだろうな。そこら辺はしっかりと見極めないと。……それにしても舗装もされていない道を歩くのは嫌だな。靴が汚れてしまうのもそうだけど歩きづら過ぎる。


 嫌な事づくめだ。ってか、アプリケーションならカーナビゲーションみたいに地図がついてきてもいいだろうに。なぜに最初の能力がガチャなんだろうな。いや、助かったけど。転生してすぐに雑魚一人でいなくて済んだけども……。甘え過ぎている、他の人の固有スキルの味を知ってしまっているからこそ辛いな。


「はぁ……って、物音……?」


 今度は少しだけ違う大きな音だ。

 魔物が右の方から現れる……気配はない。何かと何かが戦っているのか。もしくは襲われている可能性があるよな。……人かもしれないし行ってみようか。運が良ければ街まで案内して貰えそうだし。


 右の方へ方向転換をして走り出す。

 少ししてから開けた場所に出た。ゴブリンリーダーが四体、人と戦っている。何かの革装備を全員が着ているけど前衛は疲れているな。小さな子達が三人と相手は四体か、数は負けているし実力でも負けているって感じだな。ゴブリンの死体があるから何とかゴブリンリーダーだけにしたみたいだ。


 助ける……べきだよなぁ……。

 助けること自体はやぶさかでは無い。別にやるのならやるでいいが……手の内を見せるのが嫌だし助けることが俺のキャラ的に合っていない気がする。デメリットが多過ぎて面倒だけど……別にメリットがない訳では無いか。それに何より街に行きたいし仕方ない。


「おい、助けがいるか?」

「お、お願いします!」


 後衛の槍を持つ子が大きい声で返事をしてきた。

 これで横からかっさらったとか変なことを言われなくて済むな。というか、ゴブリンリーダーの死体とか要らないからあげてもいいし。街に行けるのならイノシシを売って金にして飯にする。我ながらいい案じゃないか。


「了解」


 ニーナを構えて四発きっかりで殺しきる。

 まぁ、頭から外れている個体もいたから射撃の性能は上がっていても、まだ詰めが甘いって感じがするな。いや、これだけ出来るってことがまずすごいのか。日本にいた時に拳銃とか触れたことがないからよく分からない。エアガンとかと反動やリコイルは違うし。


 チラッと戦っていた子達を見る。

 男の子が二人と女子が一人か。槍の子が女の子だったみたいだけど髪が短かったから分からなかったよ。ってか、何でそんなに驚いた顔をしているんだ。アレか、俺のニーナの珍しさが素っ頓狂な顔をさせているのか。もしくはスラさんか、俺の癒し枠が驚く原因になっているのか。


「つ、強すぎ……」

「あ、そっちか」


 そうかそうか、この子達からすれば俺は強いのか。そりゃあ驚くよな。俺も目の前でドラゴンとかを倒す人がいたら同じ考えを持つし。ただ一つだけ言いたいのは俺は強くない、ただの無能な雑魚なんだよなぁ。言ったところで悲しくなるだけだし言わないけども。


「んで、怪我はないか?」

「怪我は……ありますけど命は助かりました」


 男二人が悲しそうな顔をしている。

 何でだ、俺って何か二人にやってはいけないことでもしたのか。女の子は……ちょっと頬を赤らめているな。まさか……俺のことを好きに……何て勘違いはしない。俺はソヨメ一筋だ。浮気は……ことと場合によるな!


「スラ! 痛い!」


 トゲを刺されたんだが!?

 形状変化出来るのは水っぽいから分からなくはないけど普通に痛いんですけど。ってか、物理攻撃値が低いのは絶対に嘘だろ。何でこんなに痛く出来るのか分からない。あれか、魔法攻撃でこういうことをしているってことか。


「あの!」

「ん? なに?」


 スラさんを撫でて宥めていたら女の子に話しかけられた。すごく真面目な顔をしているから倒したゴブリンとかの配分の話でもしたいのかもしれない。まぁ、そこら辺は譲ろう。俺も大人だ、俺より歳の低そうな子達を虐める気なんてない。


「私を好きにしていいので他の二人だけは許してください!」


 盛大にずっこけてしまった。

 俺ってこんなキャラじゃなかったはずなんだけどな。少しだけ一人になったせいで自分らしさで迷っているのかもしれない。ってか、そうしたい。本当に狙ってずっこけていないし、少しだけ恥ずかしいからな。


「なんでかな?」

「命を助けてくれたのに返せるだけのお金はありません。それなら一番お金になりそうな私を売るしかありませんから」


 なるほど、つまりは男の子二人が悲しそうな顔をしているのはそういうことか。女の子を奪われてしまうことと酷い目に合わされてしまうって気待ちが入り交じって……若干、女の子の目から優奈と同じ感じがしたのは気のせいのはずだ。それなら誤解だけは解いておこう。


「面倒だしいらないかな」

「でも! 返せるものが!」


 だから! ちょっと嬉しそうに言うな!


「あのね、俺は俺で好きにしたいの。それに君をもらっても余してしまうだけだからそこの二人と一緒にいさせた方がいいでしょ。引き離すとか考えていないし」

「何で男の人なのにそういうことを考えないんですか! 私に魅力がないんですか!?」


 逆ギレかよ!? 優奈以上に面倒くせぇ!

 面倒なことが嫌いなのに面倒事の塊っぽい女の子を攫う気なんて起こらないんですけど。可愛いか可愛くないかで言えば可愛い分類だと思うけど、顔だけで言えば優奈の方が気持ち悪くても可愛かった。それに男の子二人はこの子のことが絶対に好きだろ。奪うとか好きじゃないんだよ。


 こういう時にも優奈がいたおかげで簡単に女関係での対処が出来たんだろうな。頭撫でてあげるから……っていうのは無しで。アイツがいたらいたで面倒だったし。


「はぁ、あのね……俺は道に迷っていたの。助けた理由を聞かれたら街まで連れて行って欲しかったから。もしも感謝しているのなら連れて行ってくれればそれでいいから」

「それじゃあ命の代わりには」

「なら街にいる時に手助けしてよ」


 うん、俺からすればそれが安牌。

 女の子のこととか考えられないし拠点となる街が欲しい。それに自分の立場を築いておかないといけないから元から狙っていたこれが一番、俺にはありがたい。街に着いても分からないことだらけだからな。もしそういうのなら俺が望んでいることにして欲しい。


「そんなことじゃ」

「それなら男の子の二人に聞くけど代わりに連れて行ってくれるか。ゴブリンリーダーは好きにしてもいいから」

「……え? いいんですか?」


 いいんですかと聞かれても要らないからいい。

 いや、イノシシが安いのならまだしも、危なければ街から出て狩りをしてくればいい。そんなゴブリンリーダーがどうとかは言う気がない。ああ、でも、助けてもらったのに全部もらうのは気が引けるよな。それなら……。


「あ、やっぱり、二体はもらうわ。後の二体は要らないからもらっていい。というよりも、もらってくれ」

「……分かりました。俺がやります。だから、フウには手を出さないでください!」

「うん、これなら俺も助かるし、そっちも助かるだろ。男に二言はないさ」


 これで街に行くことに関しては問題はなさそうだな。それにゴブリンリーダー二体は手に入ったし余裕はさらに出来た。すっごい大きな余裕ではないけれども街で軽く生活出来るだけあれば今は十分だな。リーダーっぽい男の子と握手をして笑いかける。安心してくれたようで笑い返してくれた。


「俺は流れ者のゼロって言うんだ。君達の名前を聞かせて欲しい」

「僕達はコーラスっていう冒険者パーティを組んでいて、僕はパーティリーダーのズミって言います」


 なるほど、コーラスのズミね。

 覚えておいて損は無いかな。一緒に何かするってことはさすがにないけど、常識とかは教えてもらえそうだし。仲良くしておいて損は無い。命の恩人に刃を向けてくるような子には見た感じは見えないから少しだけ信用しよう。特徴は……金色で割と長めの髪……は普通だな。横に飛んだ二つの髪の毛の方が覚えやすそうだ。


「俺はエン。さっきは助かりました」

「いいんだ、俺も助けてもらうんだから」


 こっちの格闘家っぽい子はエンか。

 髪が赤くてThe異世界って感じがするが髪型は普通の上にあげているだけだ。どちらかというとチンピラにいそうだけど深々と頭を下げてくるあたり人情に厚そうだな……この子も大丈夫っぽい。だけど問題は……。


「フウって言います! 精一杯、御奉仕をするのでよろしくお願いします!」

「おう、必要としていないから安心してくれ」


 このフウって女の子だな。

 槍使いは普通にいいんだが優奈と同じ匂いがするのはぶっちゃけ……嫌だ。陽菜のような常識人が少ないのかもしれない。ああ、ソヨメを愛でて愛でられたい。緑髪のショートヘアー、顔は割と可愛い感じだけど年相応の幼さが残っているな。もちろんだけどぺったんこだ。……察したのか、抗議するように手を挙げてブーブー言っているけど知ったことか。


「よろしくな」

「はい! よろしくお願いします!」


 礼儀正しい子だな。初めて会う子がこんな子で本当によかったよ。若干、一名を省くことになるけれど。とりあえずズミの近くにいさせてもらおうか。隣を陣取ってくるフウは見て見ぬ振りだ。手を組まれることだけは何としても回避しろ。面倒だから。

第一村人、もとい初めて会う異世界人です。一章では冒険者になるまでの道のりを書いていくので楽しみに読んでもらえると嬉しいです。


次回は18日に投稿します。

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