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序章十七話 再見

「ゴブリンジェネラルだから逃げて!」

「うるさい! ニーナァァァ!」


 俺に力を貸せ! 目の前のクソ野郎を殺す!

 コイツも大きな両手剣だ。当たらなければダメージもない。一撃は優奈の結界で逸らされた。大丈夫だな、振りの速度はゴブリンジェネラルと大差ない。横に回って撃ち込む。振ってからならガードも取れないだろ。


「チッ! あまり効いていないのかよ!」

「ギャギャギャ」


 気味の悪い笑みでようやく理解できた。

 こいつらは最初から俺を殺すつもりでゴブリン達を俺に差し向けてきたんだ。そしてゴブリンにヘイトを向けられた瞬間に俺への一撃を食らわそうとしていた。少し考えれば分かったことじゃないか! 何で俺は自分の事や動きばかりで周囲に気を向けなかったんだ!


 殺したい! でも、それは後回しだ。よく見てみろ、死んでなんかいないじゃないか。まだ動いているってことはソヨメも生きるためにも頑張っているんだ。だから、コイツを倒して街で一緒に生きる。例え植物人間になってでもいい! 俺のために生きてくれ!


「ニーナァァァ!」


 ニーナが輝く、俺の怒りに応えてくれ。

 ただの一つの拳銃だったのが俺の両手に今はあるんだ。二丁拳銃、それが今のニーナの姿だ。簡単に言うのなら玉が二倍に変わったということ。それだけで戦いの方法はいくらでもある。早くソヨメを運べ。目の前のコイツの気を逸らせ! 今はそれだけでいい!


 構えて撃つ、一撃も貰えない。

 秀は……ゴブリンリーダーを殺した後か、それなら数秒耐えるんだ。耐えればソヨメを助ける時間が出来る。陽菜なら延命処置は出来るはずだ。失ってはいけないんだ。俺からソヨメがいなくなってしまえばソヨメを幸せにするって決意が無駄になる。ニーナ、助けてくれ。俺はお前と共に戦う。


「一回でも振れば隙だらけだよな!」

「ギィ……!」


 肉の厚いところを撃ったって意味が無い。

 やるのならまずは目だ。殺すんだろうが、憎いんだろうが、それなら早く決着をつけようとしてはいけない。ゆっくりとそれでいて早くゴブリンジェネラルを殺す。昨日だって格上だったゴブリンナイトを殺しきれたじゃねぇか。


「顕現!」

「グルゥア!」


 ここしかない! ソヨメを抱えて下がる。

 息はある、血が止まらないが……陽菜なら何とか出来るはずだ。助ける、ソヨメを、俺の大切な人を守るんだ。仲間と一緒に俺達は生き残るんだ。ソヨメを、これ以上、悲しませなんてしない。俺が幸せにするんだ。


「レイ……」

「な、何?」

「すい……ません……」


 小さいくぐもった声。

 小さな笑顔が心を傷付けてくる。


「生き……て……」


 生きて? 生きるに決まっている! このままソヨメを助けて幸せに生き続けるに決まっているんだ。俺が進む未来にソヨメがいないのは絶対に嫌だ。短い時間だろうとソヨメを本気で愛してしまったんだ。優しくて誰よりも俺を見守ってくれているソヨメを。


「ごめん……なさい……」

「大丈夫! 陽菜ならきっと!」

「レイ……」


 血は垂れていても傷が深いわけじゃない。

 きっと助かるはずだ。直せるはず、魔法が得意なら回復させられる魔法も陽菜ならあるはずだろうが。弱音を吐かないで欲しい。ソヨメが一番に生きたいと願って欲しい。いや、愚問だ、ソヨメだって死にたいなんて思っていないはずだ。


「レイ……」

「何?」

「私……短かったけど……幸せでしたよ……」


 綺麗な笑顔、でも、それから動かない。

 俺でも分かった。分かりたくなくても分かってしまったんだ。一気に肩で抱えたソヨメが軽くなった気がする。なぁ、気のせいだよな。目を開けているんだ。瞬きをしてくれ……無理に笑わなくていいから苦しい顔をしてくれ……。なぁ……なぁ……。


「死ぬな! 死ぬな死ぬな死ぬな! お前が死んだら俺を誰が褒めてくれるって言うんだ! 何とか言えよ! ソヨメ! 俺のこともまだ教えられていなかったのに! なぁ!?」

「えっ……?」


 ようやく陽菜の元まで着いたというのに。

 無駄だった、生かそうとしたのに死んだ。誰のせいだって言うんだ。……分かっているんだろ。俺のせいだ、俺を庇ってソヨメは死んだ。このままいけば代わりに戦ってくれている秀や大和も、そして助けようと動いてくれた陽菜や優奈も。全員が死んでしまう。蹂躙される……死ぬ、死死死死死死死、圧倒的な死の闇が迫っている。俺が望んだ世界が全て壊される。


 何をする、何をすればいい。

 俺が分かっているんだろ。この中で誰が一番にいらない弱い存在なのか。誰が何をしておけば生き残れる可能性が高いのかって。言って悪いが秀じゃゴブリンジェネラルを倒せやしない。


「ヒデ!」

「だっ、大丈夫だ!」


 大和の声、秀の小さな返事。


「勇者が仲間を守れないなんて! そんなことが許されるわけがないだろ!? やれるかやれないかじゃなく俺がやらなきゃ誰も守ることが出来ないんだよ!」


 胸が痛む。確かにそうだよな、でも、俺の大切な人は。

 大切な人にとっての英雄だった、勇者だった俺はソヨメを守れなかった。この無力感を秀は抱くことになるのか。最悪は全員が死ぬ姿を見ることになるのか。もしかしたら俺だけ生き残る可能性だって少なからず……そんなのは嫌だ!


「陽菜……」

「何?」

「ソヨメのことを頼んだよ」


 最高の笑顔を浮かべてやる。

 守れ、俺が守るんだ。ソヨメが俺に死んで欲しいなんて望んでいないだろう。生きるべきなんだと思う。頼ろうとしていたソヨメがいなくなれば俺はいきていけるだろうか。それだけ短い時間でソヨメを好きになっていた。傍から見ればただ俺を素直に評価出来ただけ、でも、それで確かに俺は救われたんだ。気持ちが楽になったんだ。


 ソヨメが俺を救ってくれたように、ソヨメの素直な言葉が俺を救ってくれたんだ。いや、救ってくれる道を作ってくれたのかもしれない。どちらにせよ、ソヨメに代わる人なんて見つけられないだろう。俺の過去を知らずに優しく俺が求めていたことを教えてくれたソヨメが……時間の長さなど関係なく愛おしかった。


 陽菜と優奈の悲しそうな顔。

 そんな顔をするな、悲しませるためにしたんじゃない。安心させるために笑ったのに酷い奴らだよな。でもな、分かっていたとしてもそれ以外に何も思いつかないんだよな。少なくともせっかく助けた人達の誰かが死ぬ。戦闘は不確定なことが多過ぎるからな。分かってくれとは言わないさ、結界で作られた道を二人が走ってくる。陽菜が魔法でゴブリンジェネラルを一歩下がらせた。


 優奈……守ろうとして努力しようとした矢先にこんなことをして申し訳ないと思っているよ。ただな……もう、これ以上……仲間を失いたくないんだ。別にソヨメが死んだから後を追いたいわけじゃないさ。最後に優奈に笑いかけてやった。


「大和……後は任せるわ」

「はっ? 零! お前まさか!」


 走り出す、顕現で作られた武器で潰される雑魚。

 大和にしか聞こえないように言ったんだから秀からすれば俺の意図は分からないはずだ。大和は未だに止まっているままだ。止まる時間があるのなら戦って欲しい。いや、ソヨメに集中して戦っていなかった俺が言えたことじゃないな。


 スライディングをして木々の中に紛れる。

 ヘイトは未だに秀に向いているのだから片目は頂くぞ。ソヨメの命を奪ったのだから奪われる覚悟があるってことだ。あわよくば死ね、最悪でも苦しんで死ね。いや、苦しませて殺す。殺して殺して殺して殺す。何度でも殺す。


 ニーナのリコイルは変わらないにしても左手で撃つのは慣れていないからな。両手で全てを当てるのは難しいけど出来ないわけじゃない。怒れ怒れ怒って怒って成長しろ。生きるか生きないかを決めるのは今じゃない。生き残ったとしても死ぬかどうかはその時に決めろ。ソヨメを殺した奴を生かそうとするな。怒りで当てろ。


 突撃と共に左手で顕現で殺し損ねた雑魚を狩る。

 右手は憎むべき敵を殺す。ニーナも怒っているはずだ。俺の心を分かっているのなら俺と共に強くなれ。死ぬかもしれない俺の心を癒してくれ。俺を癒せるのは、俺の乾きはアイツの血でこそ何とか出来る。


「グルゥアァァァ!」

「雑魚を舐めるな!」


 宣言通り片目は頂いた。

 大和、気が付いてくれ。勝ち目がないってことが早く分かってくれれば……俺のやりたいことも分かっているんだから……頼むよ。最後のワガママなんだから。左のニーナの弾を補充して地面に一発撃つ。変に警戒したゴブリンジェネラルが飛ぶと思って上を向いた。そこを下がらせてもらって時間稼ぎだ。そこまでの火力があるわけがないだろ。一度だけの運ゲーだ。


「俺は……零を失いたくないッ! 俺が皆を守る! だから! 下がってくれ!」


 秀の大きな声が聞こえる。


「やれる、やれないんじゃないんだろ。お前が言ったんじゃねぇか」


 小さく息を吐いて前の敵を見つめる。

 秀の声が聞こえないってことは静かにさせてくれたんだろう。誰も何も言わないってことは下がってくれたってことで考えなければ。少しだけ都合よく考えさせてもらおう。ニーナを構える。死んでもいいから全員を守れ。ソヨメのためにも。逆に考えるんだ、死んでもいいから敵を殺せって。


 初めてだった、誰かから本気で慕われるって。

 恋愛感情に疎いわけでは決してない。俺ですらソヨメが俺に好意を抱いていたのは見ていて分かったんだ。利用した形になったが本気で俺を愛してくれるソヨメが、英雄だって心から褒めてくれていると分かったソヨメが俺には嬉しかった。それだけで、ソヨメが幸せになって欲しいって思えたんだ。きっと俺にはない才能がソヨメにはあったのかもしれない。


 ……大丈夫だ、俺だって強くなっている。

 守りたいんだろ……守りたかったんだろ。助けてくれた命を使って誰かを助ける。覚悟を決めろ、同じように意識を逸らすな。笑われてしまうぞ。この不思議な世界ならば誰かを生き返らせることも出来るかもしれない。そのためにも死ねない、友達が苦しむ姿なんて見たくない。あんな世界の終わりのような地獄を体験させたくはない。


「ニーナ、食え」


 どこまで何が出来るかなんて分からない。

 ただ最初の魔法を使えた時だってイメージが大切だった。それならイメージ一つで俺のやりたいことをいくらでも出来る可能性がある。炎をイメージしながらニーナにリロードさせる。もしも俺のイメージ通りならば……。


「たらふく食え」

「ギィ……!」


 明らかに焦った声、目の前で爆散する銃弾。

 何かにぶつかると同時に炎が飛び散るんだ。どこかのゴブリンナイトにやられたようなやり方では防げない。当たれば燃やせるとかも考えたがそれだと当たらなければ意味が無い、つまりゴブリンジェネラルと同じ攻撃になってしまう。俺が求めているのは完全なる遅延、殺しきるために戦いを引き伸ばしているだけだ。


「さぁ、第二セットと行こうじゃないか」

「ギギィィィ!」


 走り出して大きな横振り。

 だが、残念かな。その振る速度では攻撃を予測さえしていれば躱せなくはない。前の俺ならもっと早めに動く必要があったが一段階の成長だけでかなり動きに幅が効いている。殺しきるんだ、何かを守ろうとするのであれば。死ぬのならば一矢報いろ。ソヨメのためにも……もう、死ぬことには恐怖なんてない。ただ出来るのならば生き残りたいが……この状況じゃ無理だな。


 剣の上に乗り顔面まで近づく。

 この一撃に賭けるんだ。一番に火力の高い爆散型の弾で頭を貫く。大きなリロード音、それと同時に焦がすほどの威力を持つ銃弾。貫き切れない、それはニーナの火力不足だ。だが、それでいい。足りなければ何度でも放ち続ければいいんだ。八発を連射して後ろへ飛ぶ。幸いにも顔へのダメージで怯んでくれている。


 もう一度、リロード。

 捕まれた、大きな手で体を握り潰そうとしてきている。さすがに剣で攻撃を当てることは諦めたのか。……これで殺しきれなければ俺が死ぬ。このまま握り潰されて……それも悪くは無いのかもしれない。でもな、ここまで時間を稼がせてもらったんだ。せめて、お前の命を餞にしてソヨメの元へと行かせてもらおうじゃねぇか。


「アアァァァ」

「食う気か!? なら食えよ! 銃弾をな!」


 俺を運ぼうと大きく開けたゴブリンジェネラルの無防備な口、そこ目掛けて何発も何発もニーナで撃ち続けた。撃っては装填、撃っては装填を繰り返してゴブリンジェネラルの命を奪おうとする。馬鹿だ、最後まで馬鹿だった。このまま潰せば簡単に殺せたものを余裕ぶりやがって。


 痛みに耐えかねて投げられる。

 痛い、木へとぶつかったと理解した時にはゴブリンジェネラルの大剣が向かってきていた。自覚している、俺に躱せるだけの余力は残っていない。痛くて痛くて痛い、ただそれだけ。それ以外に頭が考え出すものがない。視界がぼやけていく。死の間際、だからこそ、最後の銃弾を撃ち込んだ。


「……は、ざまぁみやがれ……」


 死んだ、ゴブリンジェネラルが倒れてくれた。

 でも、腹に突き刺さっているこの剣は抜けそうにないよな。ああ、これが死ぬってことか。これがソヨメの最後に見た景色か。そう思うと……案外と死ぬことは怖くないな。悪くない……転生があるのなら次はソヨメのそばで……。


「……ヒデ……ごめんな……」


 ……ソヨメに最後まで言えなかったな……。




 優奈……最後の最後で泣かせてしまったな。




 あの時に……ーーしたのに……。




 本当に俺は最低だ……。




 ああ……こんなことで後悔……するなんてな……。




 俺……めんどくせぇやつ……。

これにて序章の終わりです。ここから本編が始まりますので楽しみにして貰えると嬉しいです。ここから先は少しだけ胸糞な話が多く出ます。あまり書きたくはありませんが人によっては気分が悪くなるものもあると思いますので、ご注意してお読みください。気分の良くない話を書く時は前書きにて注意喚起します。


次回は恐らくバレているでしょうが十四日に出します。

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