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序章十三話 理解

「……君達は悪くないだろ」


 それが目の前の被害者に言うべき最善の言葉ではないと分かりながらも言ってしまった。自責の念で女性が思い出してしまうだろうに……自分の抱く心の闇の渦、それが自己保身のように誰かを傷付けようとするんだ。


 俺は悪くない、悪くないんだ。

 それを理解しているはずなのに心がそっぽ向いたように聞き入れてくれない。納得してくれない。被害者を目にしてもまだ俺が全てを悪かったと言い続けるんだ。例え来た時にここで助けられたとしても遅かっただろう。数日であそこまで家をボロボロにさせられるとは思えないから。


 だから、俺達は絶対に悪いわけがないんだ。

 それを被害者の口から言わせようとしている自分がいる。本当に気持ちが悪いな。ここまでして俺は俺を守ろうと必死なんだから。でも……もし自己保身がダメだと言うのならどうしろって言うんだよ。この痛みを抱えて助けをこえと……分からない。俺はどうすればいいんだ。


「……私は悪くありません。それでも同じように皆様も悪くないじゃないですか。私は助けられましたよ。……こんな女として終わっていることを良かったと思えた日はありませんが」


 女として終わっている……その意味は理解出来なかったが陽菜は唇を噛んでいるだけだ。陽菜の精神的ダメージが少なく見えるのは行為を見ることがなかったからかもしれない。


「私……子供が出来なくて村で厄介者だったんですよ。それが無くなって……他の人がゴブリンを産んで……使えなくなったら喰われて……」

「……そうか」


 子供が出来ないってだけで厄介者扱いなんだと複雑な気持ちになってしまう。ゴブリンはゴブリンで色々と怖いところがあるが……言ったら悪いがどっちもどっちだな。男としての価値や女としての価値を第三者が測るのはどうなのか。……そんな場所は無くてもいいと思うが、その願いがこんな形で受け入れられるのは違うよな。


「だから……何も無くなって清々しました。泣いた時に思ったんです。ああ、私が無くしたくないって思ったものがなかったんだなって」

「……それで手助けしてくれたのか?」

「本当は泣きたいって気持ちもあります。でも、泣いて何が変わるんですか。もしかしたら冒険者様からしたら助けるのが遅かったと思うかもしれません。助けるのが早かったら……それは過去の話です」


 確かにその通りだと俺も思う。

 でも、それを肯定してしまえば泣いて辛いと現実を見て見ぬ振りをしたいガキの自分の心、それを肯定してしまうのと同じだ。自己保身を肯定してしまうの同じだ。俺にそれをする権利なんてものは無い。


「……零!」

「……何?」

「この人の前で言うのは悪いと思うんだけどね。少なくとも私や優奈は救われたよ。こんな場面に出くわすなんて思いやしなかったと思う。零の思うことも分かるよ。それでも見ながら思ったんだよね。ああ、私の仲間が強くて本当によかったって」


 それは被害者を冒涜するような言葉。

 元村人の目元は薄らと涙が溜まっていた。言ってはいけないと分かっていながら陽菜は俺に何を言いたいのか。喉が嫌なほどに乾いて仕方がない。


「過去は変えられないよ! それでもさ! 過去が嫌なことだらけだから未来もそうなるって言うわけではないでしょ! それに私達は敵を倒してくれた零に助けられたの! 自分を責める必要なんてないんだよ!」

「そ、そうですね。私も助けられました。せっかく助かった命なんです。最後まで幸せに使わせてもらいます。途中で殺された住人のためにも」


 助けられた、それは仲間と元村人の言葉。

 俺はその言葉を信じてもいいんだろうか。仲間である陽菜の言葉を、守れなかった人の言葉を本気で……こんな時に限って肯定出来る言葉が浮かんでこない自分が本当に嫌だ。肯定していい、そんな甘えた言葉を俺が認めても……。


「だから、もしも本当に私を助けたいというのなら送って欲しいんです。実はそれを言いたくて付いてきました」

「……いきなりだな」

「ええ、話をする機会が欲しかったんです。ここまで悲しんでいると思うと本題も話せないじゃないですか」


 初めて見た笑顔はすごく明るかった。

 もしかしたら続けても俺が納得しないって考えた上で話題を変えてくれたのかもしれない。これならどちらが被害者か分かったものじゃないな。きっと気のせいだとしても俺は感謝しか出来ない。少なくとも俺の心は軽くなった。優しい子だな、この子は……。


「……それは俺が決められることじゃないよ」

「見ていて分かりますよ。誰がパーティのリーダーなのかって。冒険者様ならリーダーの言うことは絶対ですからね」


 へぇ、優しいだけじゃなくて見る目もあるのか。

 とは言っても、好んでリーダーになっているわけではないんだが。いつでも不信任決議は受け入れる所存だ。やりたくてやっているリーダーじゃない。秀に譲ってやりたいとすら思っている。


「……まぁ、冒険者ではないけどな。リーダーだとしても皆の意見を聞かないといけないだろ。どちらにせよ、肯定も否定も今は出来ないな」

「そうですか、近く街の案内もしようかと思ったのですけど、それでもダメですか」

「街の案内……」


 それは悪くない提案だな。

 俺達は異世界の常識や話には疎いし近くの街の場所もよく知らない。行けたとしてもどこに何があるのかを知らなければ面倒そうだ。その点で考えれば連れていくのはアリだが……目の前の子だけならまだいいだろう。他の子は俺達の心も抉る結果になりそうだし、何よりも守るための戦力がないからな。メリットもデメリットも大きくある。


「帝国なら税の話とかも面倒ですよ。見た感じ帝国の人よりは王国の人よりですし。それに皆様がいなければ私達は奴隷落ちが確定してしまいます。助けられなくなりますよ?」


 もう一押しだと踏んだのか、ここぞという俺の心に刺さる言葉を出してくる。どちらにせよ、俺達のメリットは大きそうだな。確かに助けるのなら最後まで助けろという話だ。英雄を気取るわけではないが、せめて、この子だけは助けてやりたいと本気で思っている。


「……仕方ないな」

「さすがは私の英雄様ですね!」

「俺はいいけど他の皆がどう言うか分からないからな。それ次第でもあるが」


 どうせ、俺が連れていくと言えば皆がいいって言うだろうな。良くも悪くも俺に頼っている。俺に価値を見出してくれるのはありがたいがそれはそれでプレッシャーなんだよ。と、それよりも言わなくちゃいけないことがある。


「俺は英雄って呼ばれるほどに強くはないよ」

「私のと付けましたよ。個人が思う英雄に強さなんて関係ありません。救ってもらった人が勝手に思うんです」


 それはそれでむず痒いな。

 俺が英雄か……守れやしなかった俺が……。不思議と嫌な気持ちは湧いてこない。初めて俺の弱さを肯定された気がする。何をやっても最初は上手くいって後半になると何も出来なくなる無気力な存在。そんな俺が無職なのは分からなくはなかった。弱いのにも納得出来た。……それを何も知らない子に肯定されるなんてな。


「お前、名前はなんて言うんだ?」

「ソヨメ、ソヨメって言います。ムーンストーンの二十二日目生まれの十八歳です」

「そこまでは聞いていないけどな!」


 ソヨメ、うん、覚えておこう。

 この子だけは少なくとも守らないといけないよな。他の人達はともかくとして生きようともがいている、この子だけは。この子だけはどうしてだか一段と輝いて見える。最悪は……いや、それは本当に最終手段だ。この先がどうなるかなんて分かりやしないんだから。


 こうやって死ぬ思いをしても笑えるような、ソヨメのような人に俺もなりたい。誰かを思って助けられるようになりたい。……英雄か……才能のない俺に言うにはもったいなさすぎるほどに壮大な肩書きだよ。


「……ごめんな、もっと強ければ早く助け出せたのに……それに当たって……」

「貴方になら構いませんよ。助けて貰った時にすごく苦しそうな顔をしていました。私達のことを思ってくれていた優しい英雄が自分を守ろうとしたにすぎませんから」


 何を言っても肯定されてしまう。事実、ソヨメの話す通り俺はさっきの女の子達の立場で考えてしまった。ああ、そうか。確かに異世界の人からすれば俺は優しすぎるのかもしれないな。俺でも気がつけなかったことなのに……。はぁ、この思いは少なくとも優奈や陽菜にはバレたくないな。きっと笑われてしまう。だから、笑顔で返しておこう。


「仲間外れは酷いと思わない?」

「あ、悪い。普通に陽菜のことを忘れていたよ」

「……麻痺」


 うっわ、すっごいな、体が言う通りにしない。

 黒目も少し大きくなっているからこれが魔眼を発動している証拠なんだろうな。でもさ、すげぇ陽菜の顔も暗くなっているだけど。怒ったのは分かるけどデメリットがあるのならやるなよ。そう思っていたら解けたし。


「怒らせて悪いな。でも、そんなことをしなくても申し訳ないって思うよ。自分の身を削ってまでそういうことをするのはやめてくれ」

「……うん」


 悲しいのか嬉しいのか、どちらか一方の顔をして欲しいな。これならふらついた陽菜の体を支えた俺が離れるべきか、もしくはそのまま楽になるまでいた方がいいのか分からなくなる。ただ嫌なら離れるよな。もしくは動けばふらつくからか。


「大丈夫か?」

「……少しMPを使い過ぎたみたい」


 ……馬鹿だ、そんなことで使うとか馬鹿すぎる。

 陽菜にしては珍しい気がするけど森に入ったままで倒れられても困るしな。割と気分も楽になったし一度、戻ろう。陽菜をおんぶして持ち上げてみる。身長も小さいしかなり軽いな。運動してねぇな、コイツ。


「ちょっ!?」

「動けないなら運ぶだろ。暴れるな」

「う……うぅ……」


 恥ずかしいんだろうな、仕返しだ。

 麻痺のせいで少し痛かったんだからな。ステータスを考えて調節してくれたにしても痛いものは痛いんだぞ。それならせめて、皆のお笑いものにでもなってもらおう。ソヨメからも羨んだ目をされたけど……悪い、その胸のせいでおんぶとかしようと思えない……デカすぎる……。


 その視線に耐えきり俺達は村へと戻った。

 未だに泣いている人はいないか。さすがに流す涙は枯れきったみたいだ。そこまで泣いたりするだけ辛かったことなんだと思う。既に優奈もいるからさっきの姿を見たっぽいな。


「おう、戻ったのか」

「戻ったよ。少しだけ話をしてね」

「その感じ……少しは楽になったみたいだな」


 楽になった……確かにその通りだな。

 これもソヨメと陽菜のおかげか。いつもこうなんだよな。嫌なことがあれば皆が助けてくれる。そして代わりに助けてあげたいって思える。そんな関係が俺の心には染み付いているみたいだ。忘れようと思った、甘えだと思っていた気持ちだ。そう簡単には忘れられないよな。


「陽菜! ズルいよ!」

「仕方ないでしょ! いきなり抱えられたんだから!」

「それなら降りてよ!」

「無理! まだクラクラするし!」


 こっちの二人は二人で喧嘩しているし。

 本当に面白い奴らだな。大和が大和なりに間に入ろうとするけど女心も知らないから殴られて終わっている。俺に助けを求める視線を送ってきても無理だぞ。俺も女心をワカラナイーズだ。何でこんな言い合いになっているのかも分からないくらいだからな。


「と、それはいいとして。皆に言っておきたいことがある」

「うん? 何だ?」


 優奈と陽菜の喧嘩はそのままにしておこう。

 面白そうだし降りる気配もなさそうだから陽菜はおんぶしたままだ。なんだかんだ気に入っているようだしな。それならこのままで反応を楽しんだ方がいい。俺に触れようとしない辺り優奈らしさも見えている。攻撃に近いことはしないって優しさだろうな。引き離すとか出来ないんだろう。


「俺達はそこの子達を連れて一番近い街に行く。税とかもかかるらしいけどさっき手に入れたお金さえあれば足りるだろ」

「……なるほど、道案内をしてもらうのか」


 秀が納得したようなので首を振ってソヨメを前に出す。小さく耳元で「名前を言って」と言うと恥ずかしそうに俯きながらも「ソヨメです」と言ってくれた。


「この子に持ちかけられたんだ。生きるために連れて行って欲しいって、私に価値がありますよってね。だから、最低限のことをしてあげる代わりに俺達がしてもらいたいことをやってもらおうと思ってな」

「……まぁ、面倒くさがりな零が了承するなんて不思議なことがあるとは思うが、いいって言うのならいいぞ」

「気まぐれだ、気にするな」


 秀の全て分かっているぞと言いたげな目が腹立つ。後、死体を抱いていた子が秀に見せる視線も俺には分かっているからな。その子の顔を見たら目を逸らしやがったし確定だろう。コイツ、その子のことを好きになったな。まぁ、いいさ。どんな反応をしてくれるのか楽しみにするだけだ。


「取り付け用のテントは見つけたからな。わざわざここで建てる必要は無いだろう」

「そうか、それは知らなかった」

「優奈が見つけてくれたんだ。感謝してやれよ」


 からかっているのか、コイツ。

 優奈は優奈で褒めて褒めてって言いたげな子犬みたいな目で見てくるし。しゃあないか、頭だけ撫でて「よくやった」って言ってやろう。それ以上はしてやらないからな。


「その子達は?」

「話をしたら楽になったみたいだ。多分、大丈夫だろう」


 大丈夫なのはお前が好きになった女だけだろ。

 まぁ、似た者同士なんだ。言わないでやるか。言おうと思ったけど言えばソヨメのことを言われておしまいだ。仕方が無いので秀と大和に他の子達を任せて出口付近に行った。少し暗くなり始めた頃に俺達はトラウマとなった村を出た。

一目惚れをした時ってどのようになるんですかね。作者自身が一目惚れをしたことがないので詳しく書けませんでした。この一目惚れにもそれなりに理由があるので、ただ好きになってしまっただけで済ませるつもりはないです。伏線(?)みたいなのも少しずつ出していこうと思います。


次回は六日に投稿します。

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