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序章十二話 成果

少しだけ気分の悪くなる描写があります。

読まなくても先の話で大まかな説明なども出るのでグロテスクなものが嫌いな方は飛ばすことを推奨します。

「これはゴブリンナイトだね」

「ふぅん……強いのか?」

「少なくとも秀でやっと対処出来るくらいの敵だと思うよ。よく倒せたね」


 ゴブリンナイトの亡骸を弄りながら陽菜がそんなことを言ってくる。あの強かったゴブリンナイトはゴブリンリーダーの進化種だったみたいだ。それなら強いのも納得だな。一気に強くなり過ぎている気がしないでもないけど。


 倒してから少しして殲滅しきったのか、陽菜を抱えながら秀が戻ってきた。戻ってきてそうそう陽菜がゴブリンナイトに興味を持ったみたいだが。そこまで興味深い存在なのかもしれない。


「うーんとね、このゴブリンナイトはゴブリンリーダーから進化してかなり時間が経っていたみたい。もし来るのが遅かったらゴブリンジェネラルっていう次の進化先になっていたかも」

「……さすがにそこまで行っていたら俺達じゃ太刀打ち出来そうにないな」

「うん、ゴブリンナイトってだけでもオークの数段上の強さだからね。それにゴブリンジェネラルともなると小さな小隊が組まれて討伐されるほどだから」


 そう言われてしまうと早めに倒しきれてよかった。というか、ニーナという最高な武器を手に入れられて本当によかったな。陽菜の言うように最高戦力である秀がやっと倒せるかもしれない敵だったんだ。強いとはいえ一撃は秀ほどではない大和では倒しきれなかったって判断は間違っていなかったか。


「倒しきれてよかったよ」

「そうは言ってもねぇ……無茶しすぎなんじゃないかな?」


 無茶のしすぎって言われてもな。

 倒すことだけが頭の中にあったわけで秀に援軍を頼むって考えはなかった。そもそもの話が俺の攻撃だけが効くってだけで俺が倒そうに直結してしまったわけだし。俺からすれば攻撃が当たらなければいいって思ったら都合よく優奈の結界に頼ることになる。要はこの二つがあるせいで無茶をしたわけだ。文句があるのなら変に現状を打破する能力を持たせた神様にしてもらいたいね。


「……まぁ、悪ぃ」

「いいんじゃないのか? 俺が来るって保証もないなら倒せないと誰かが死ぬ。そうなる前に零も戦ったわけだしな」

「秀……そうやって甘やかすから零も調子に乗るんだ。ただ……力不足は感じてしまったな。来てからというもの攻撃が効かないってことが初めてだった。零には感謝しかない」


 拳を強く握って悔しそうな顔をする大和。

 分かるよ、俺もそう思うんだ。それに大和の力不足は戦ううちに変わっていくだろう。俺とは違って強くなれるんだからな。俺のように先の見えない弱さとは違う。武器に頼るしかない雑魚とは違う。


 倒せたことはとても嬉しい。助けられて本当によかったと思える。それでもこうやって大和を助けられるのは今だけだ。そのうち俺は不必要になるだろう。遠距離は陽菜で十分、守りは優奈が何とかしてくれるだろう。ヘイトは大和が買えばいいし、司令塔は前衛にいながら秀がやる。俺の位置はそこにはない。


「そのうち倒せるようになるさ」

「ああ、そうだな。次は俺が零を守ってみせる」


 大和の笑顔で優奈の言葉を思い出す。

 皆、俺のことが好きだから守ろうとするって。でも、もしそうならば俺はずっと守られ続けるだけの存在になるだろう。ここは酷く心地が良すぎるんだ。大和の優しさを疑ったような、皆の優しさを疑いはもうしない。きっと、この言葉のように皆が俺を守ってくれるんだろう。


 決断しないといけないよな。このチートだらけの勇者パーティに俺のような凡人以下の雑魚がいるべきかどうなのかを。きっと皆が俺を必要だと言っても周囲の人はそう思いやしない。……弱く生まれてしまった自分を恨むしかないな。


「いや! 優奈が守るから!」

「守られる前に俺が倒すから安心しろ」

「近付かれる前に魔法で倒すよ」


 変なコンボのせいで口元が揺らぐ。

 いや、違うよな。そう思っても今は決断する時じゃないよな。俺がそれを決める時は街に着いた後で構わない。わざわざ皆から離れるのを早める必要性なんてないよな。俺がいたいと思うのなら決めるのを後回しにしてもいいはず。今なら誰も俺を咎めやしないんだから……。


「ああ、頼りにしているよ」


 皆で大きな声を出して笑い合う。

 そのまま陽菜がゴブリンナイトの死体をマジックバックにしまい始めたのを見て俺達もゴブリン達を一箇所に集め始めた。戦いの最中に踏んだりしたせいでボロボロなものも多い。そういうのは拾わずに燃やす予定なので違う場所に集めておく。


「魔物とか人の遺体って、そのままにしておくとゾンビ化するんだ。だから、燃やすか埋めるかをしておかないといけないよ」


 最初はボロボロなものは置いたままにする予定だったけど、陽菜にそう言われて集めるようになった。ゾンビというこれまた二次創作の範疇から出ない非現実的な名前が出てきた。まぁ、ゴブリンとかがいるこの世界ならなんでも有り得そうだけどな。


 全てを集めきる頃には日が暮れていた。

 使える遺体と使えない遺体の二つの山が出来ていて戦闘の激しさを物語っている。百はゆうに超えているよな。民家がまだ使えそうだったところを踏まえるに短期間でここまで増えたんだろう。


「ふぅ、終わったな」

「うん、後は民家の調査とかをした方がいいと思う。生き残りがいたら倒しておかないといけないからね」


 陽菜、恐ろしい子……。

 ほぼ殲滅したはずなのに生き残りがいたら殺すべきだなんて……。まぁ、本音を言えば分からなくはないからな。生き残ったゴブリンがいれば人間に恨みを持たないとも限らない。人間を襲う敵であるゴブリンはいない方がいい。いくつもの理由になりそうなことがあるから起こらないように潰しておくのも必要だ。


 とりあえずは戦闘で壊れた民家とかは見るのは後でもいいだろう。先に見るべきなのは真ん中に建てられた少し大きめの家。他の家が二部屋くらいしかなさそうな大きさなのに、そこだけは数倍は大きい。外見からして綺麗だから何か使えそうなものもありそうだ。


「あそこでも見てみるか」

「いいと思うよ、手分けして見て回ろう。いたとしてもゴブリンナイトほどの敵はいないだろうから心配する必要もないし」


 首を縦に振る。強ければ隠れる必要も無いしな。

 いや、それはいいんだけど俺が大きな家を見るべきだって言ったせいで、その家以外の場所を皆が見始めているし。……これは遠回しに俺がそこを見ろってことだよな。普通に骨が折れそうなくらいに広そうなんだけどな。


「……失礼します」


 人はいないだろうが礼をしてから入る。

 靴を置く場所はない。日本人ならではの家では明らかにないな。文化の違いをこんなところで感じてしまう。ただ玄関ではあるようでボロボロの革靴とかは置きっぱだ。置いて逃げたか、はたまた逃げられずに……。


 そのまま奥へと進んでみる。

 中はゴブリンが勝手に使っていたんだろう。ゴミ屋敷かってくらいにボロボロだ。そこら辺に床である木の欠片が落ちている。場所によっては床がただの土で大きな穴が空いているのもあるな。人の代わりにゴブリンが済むとここまで酷くなるのか。


 汚いな、それ以外に言うことがない。

 さすがに玄関で使えそうなものを探すのはないかな。大事なものを玄関に置いておく人は滅多にいないだろう。元々が人の住む場所なら奥の部屋に貴重品を置くって考えた方が効率的だな。もしも着の身着のままで逃げたのなら使えるものが置いてある可能性はある。元住人はかなりの収入があった人だろうし。


 入口付近の部屋ではなく一番奥にある部屋へ進んでいく。お、軽く歩いただけなのに大きな穴が空いたんだが……。本当に老朽化が激しかったんだろうな。ドアは開閉とかじゃなく入口側に折れ曲がっているし。……と、俺の勘は間違っていなかったっぽいな。


 いくつかの金や銀の貨幣が落ちている。一箇所に集めているあたりゴブリンの習性に光るものを集めるとかがありそうだな。鉄のような鈍い光を放つ剣とかも一緒に置かれているし。錆びた斧や鍬とかは元村人達のものか。目新しいものは……パッと見てなさそうだ。お金は使えるから持っていこうとは思うが武器は不必要。ナイフがあるからそれは貰っておこう。


「お、これは使えそうだな」


 特に何かが入っているわけではないが腰に付けられそうなポーチがあった。この中にナイフを収納させればいいから俺にとっては嬉しいアイテムだけど。さすがによくある小説とかの最初に倒した魔物から魔剣とか価値の高いアイテムが手に入るみたいな、そんな都合のいいことは起こらないよな。


 ポーチもナイフが十本で満杯だ。

 少しだけマジックバックみたいな能力があるかと思ったけど、そんなこともなく。本当に盗賊を倒した時にマジックバックを得られたのは運が良かったな。……こんだけお金を初期で得られるのも運がいい。秀と優奈の影響がありそうだ。俺に関してはGだったし。


 取り繕って部屋の入口付近に集めておく。使えそうなものだけを持っていくので不必要なものは置きっぱにしよう。それに部屋は一つだけじゃないからな。まずは全部を回ってみてから必要だと思ったアイテムを厳選しなくちゃいけない。陽菜いわくマジックバックは有限だから入れられる量が決まっているらしいからな。


 ニーナを構えてその隣の部屋を見る。

 さっきとは違って扉は閉まったままだ。それもここだけ少し綺麗に見える。右腕で左手を支えながら扉の前に立つ。小さく深呼吸、もしかしたら敵が出てくる可能性もあるからな。強く蹴って中を覗いた。


「うっ……」

「ふぅ……ふぅ……」


 一気に喉元を過ぎった吐き気。

 それは俺じゃなくてもこうなるだろう。考えていなかったからな。扉を開けた先に数人の裸の女性がゴブリンに犯されているだなんて。それも大きな音を立てて開いたというのに行為の真っ最中。猿よりも頭が悪い。……いや、他のことを考えるよりも救うことを優先しなければ……。


「死ね、汚物」

「ピギィ……」


 一匹目を駆除、それでも他のゴブリン達は逃げようとせずに行為を続ける。それも女性の中に入れっぱなしだったゴブリンを殺したから、口元を犯しているゴブリンにはその光景が見えているはずなのに。もしも俺が負けていた優奈や陽菜もこうなっていたのか……?


「……ハァハァハァハァ……」


 気がついた時にはゴブリン全てをナイフで滅多刺しにして殺していた。明かりがなくて犯されていた女性の数は分からなかったが、今ならしっかりと目視出来ている。五人の女性が一人三体以上、総数十七体のゴブリンを相手していたんだ。まだ女性達には息があるけど生気はない。目が死んでいるように、そして助かったというのに変な笑い声をあげるだけだ。


「……大丈夫か?」

「アハ……アハハ……ハハ……」

「くっ……うっ……うう……」


 泣くもの笑うもの、そして滅多刺しになったゴブリンの顔を何度も何度も殴るもの……色々な行動はあれど正常だと言いきれるような雰囲気はさらさらない。俺は俺で助けたつもりだが……本当に助けるべきだったのか? そんな疑問も起こってくるくらいに見るのも痛々しい。


 異世界に来て数日の俺が目にするには精神的に辛すぎる惨状を見せられている。立ち上がって目はボーッと、口は笑っている女性の足からは白い何かが垂れ流れていて俺の後悔をより強めてきた。本当に助けるってなんなんだろうか。少なくとも犯していたゴブリンを殺しただけで目の前の女性達が助かったとは、到底、俺には思えない。


「エブリィ……」

「……ッ!」


 見なければよかった。

 一人の女性が泣きながら何かに近づいたと思えば頭蓋骨が露出した遺体だった。抱き抱えて目から涙を流している。口から何かを垂れ流しているし生きているとは到底、思えやしない。これが負けたものの末路、平和ボケしただけの日本ではありえない光景。


 誰一人として服を着ていないことに何も違和感を覚えずに欲望に沿った行動をしている。時間は経ったのに泣くものは泣き続け、ゴブリンを殴り続けるもの、笑い続けるもの……精神的に悪すぎるな。こういう時に誰を連れてくればいいんだろうか。優奈や陽菜は論外だ。……秀しかいないだろう。


 まずは他の部屋から使えそうな衣服を見繕ってくる。いつまでも裸は俺の精神を抉るだけだ。綺麗な素肌を晒されるだけなら違う欲望を抱きそうなものの、ゴブリン達に好き放題にされた人達を見ているのは無力感が募るだけ。吐き気を催してくるだけ。……辛くなる。


「これを着ろ」


 まだ話が通じる人は素直に着てくれる。

 それでも感情はここに在らずと言った感じで服を羽織りながら泣いたりしている。服を着て貰えなかったのは笑っている女と友人だったであろう遺体を抱いている女だけだ。……こういう時に俺はどうすればいいんだろうか。もしも大切な友達がこんなことになっていたのなら……そう考えると無理やり引き離せやしない。


 仕方が無いので優しく服を簡単に着させる。


「……人を呼んでくるべきだったな」

「……手伝います……」


 笑っている女に服を着せようとしている時に早く終わったのか。最初にずっと泣いていた女が手助けをしてくれた。異性に変なところを見られるよりは同性に見られた方がいいだろうから、俺が女を持ち上げて女に履かせるのを任せる。上はそのまま被せる感じだ。調べた結果、ブラジャーみたいな下着はなかったしな。


 同じ要領でとりあえず下だけ元友達だったものを抱える女に履かせてやる。上は抱えているせいで着させてやれないから本当に羽織らせるだけだ。そこで一段落をつく。……変な意味で捉えられる可能性はあるが汚いとは思えど気持ち悪いとは思えない。ここにいる全員が助けのない世界で生きていたとするのなら、俺達がもっと遅ければ全滅していただろう。俺が俺を攻める必要なんてないわけだし仮に気持ち悪いと全員を蔑んだような感情を抱けるわけもない。


「……お前だけはまだ大丈夫そうだな」

「……大丈夫……ではありませんが……」

「とりあえず全員を外に出す。そこでゴブリンに出されたものとかは何とか出来ると思うから手伝って欲しい」


 陽菜には見せたくないがそういう魔法を使えるのは陽菜だけだ。避妊とかの魔法があるとは思えないが体を綺麗にさせる魔法があるのは見た。それで長い間、風呂にすら入っていない全員を綺麗にさせることは出来るだろう。


「……ええ、任せてください」

「悪いな……助けるのが遅すぎた」

「気に病むのはやめてください。村を襲われた時から死を覚悟していましたから……」


 発言からして元村人なのか。

 とりあえず問題の二人以外を先に外に出て笑っている女は何とか運ぶ、遺体を抱える女の方は二人がかりで持ち上げて外に運んでおいた。それを大和に見られたようで指で優奈の方向へ指示を出しておく。首を振ったから分かってくれたはずだ。


 その後に秀、陽菜が見えたので陽菜を呼んで俺が見ている中で綺麗にしてもらった。予想通り体を綺麗にさせる魔法でゴブリンのアレとかも対処出来るようで何とかしてもらった。それだけで話が出来た女性が泣いたので悔しさだけが心に残ってしまう。その間に秀には集めておいた使えるものだけを外に運んでもらった。


 俺がやりたかったのはこれだけだ。


「……燃え尽きろ」


 家を燃やすこと、トラウマを植え付けてくれた場所を消し去ることだけだ。全員が泣いていたような気がする。笑っていた女でさえ、口元は三日月形に裂きながらも目元から涙を流していた。


「悪い……少し散歩してくる……」

「……気をつけろよ」


 秀に許可を取って村から外へ出た。

 そんな中で後ろから走ってくる人がいた。秀ではないな、女が二人……。


「……私達のせいで気分を悪くさせてしまったようで」

「付き添いに来たよ」


 話が通じた女と陽菜だった。

少しだけ胸糞な話をいくらか出すと思います。作者自身が読者に物語の中へと入り込みやすいように主要なキャラの一人一人に良い話も悪い話も考えています。もしかしたら読んでいて嫌な気持ちになるかもしれませんが、そこもキャラ一人一人の物語として楽しんでもらえると嬉しいです。一章に入ってからは「すれ違い」や「嫌悪」と言った感情も強く影響してくるので一応ですが書かせていただきました。


次回は四日に投稿します。

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