序章十一話 川辺
前話までの話なのですが、投稿する日にちを間違っていたようで後書きと矛盾が発生してしまいました。今度からはそうならないように気をつけます。本当に申し訳ありませんでした。
「ゴブリンよりもかなり強いから警戒して! 後、皮は高く売れるから無駄に傷付けるのも禁止!」
「了解」
ワニは強いと言われたけど一匹だけだ。
優奈の背中を押してワニの攻撃を盾で受け止めてもらう。盾よりも大きく口を開けて破壊しようとする様は圧巻だ。だが、そんなことで怯んだり怖がったりする優奈では……。
「いやぁー! 助けてぇ!」
「はいはい」
そうだったな、さすがに怖いか。
ナイフを投げて片目に当てておいた。ここで前へ出られればかなりの手助けになるんだけどな。申し訳ないけど俺は弱いし優奈のように受けられるだけの力もない。目潰しで勝手に暴れさせるだけでも活躍はしているだろう。
「死んでぇ!」
「グガァ」
エグいな、口の中に剣を差し込んで引き抜いているんだから。ワニといえど内側の肉はかなり柔いようで暴れ方が強くなった。生きるための最後のひと暴れだな。撃ち込んでやりたいのにニーナなら絶対に傷を付けてしまう。だから、任せよう。
「顕現!」
大きく手を開いて秀が剣を作り出す。
逆手で握られた剣がワニの口と地面とを繋ぐ。そこを一気に近付いた大和がワニの硬いであろう表皮をぶん殴って白目を向かせていた。確認した後に秀が剣を引き抜いて広げられた口の中に差し込む。これで本当に死亡だ。
強いと言われていたから期待をしたのにこれはかなりガッカリだな。もっと強いのかと思って楽しみにしていたのに。でも、まぁ、ワニの肉は美味しいだろうな。そういう意味では少しだけ嬉しい話だ。
ステータスを一応だけど確認してみた。
ゴブリンよりも強かったからかレベルが一つだけ上がっている。多分だけどレベルと並行して必要な経験値は多くなるだろうからな。こうやって小さくとも上がっていることを確認出来るのはありがたい。ワニとの戦いでやったことは目潰しだけだから一撃を加えるだけで、経験値は手に入ることは確定している。こういうことが分かっただけでも得だな。
「うん、品質はいいし高く売れると思うよ」
「肉は食おうよ」
「そのつもり、皮さえ手に入れば良かったからね」
それなら尚更ニーナでの攻撃は駄目だったな。
今回はニーナの出番は無しと。川を眺めてみると結構、済んでいる。手に救うとかなり冷たいし飲めそうだ。まぁ、いざとなれば陽菜の魔法で何とかなりそうだし持っていく必要は無いけど。ただ綺麗というだけでいくつかの考えは湧いてくる。
物は試しか……。
「陽菜? ーーって、出来る?」
「うーん……やってみるよ」
静かに川の水面に手を当てて深呼吸している。
皆が陽菜の顔を眺めている中で小さく呼吸を吐いた。瞬間に水が少しだけ飛び散って魚が数匹だけ落ちてくる。一緒に小さな水溜まりも出来ているから魚のいる部分の水だけを外に出したって感じだろう。本当に上手くやるよ。
「いっちょあがり」
「そうだな……これを川辺を進みながら二回はやってもらいたいな」
「その程度なら安心して」
魚は大きな栄養源だ。焼いた肉より美味しいと思うからこそ取っておきたかった。水の操作って出来るか聞いただけでここまでやれる陽菜は本当に優秀なんだな。比べても無意味なのは分かっているのにどうしても比べてしまう。
俺に出来ないことがあるように陽菜にも出来ないことがあるのは分かっているはずだ。それを無視出来ずに悩む俺は本当に馬鹿だ。こんなことで悩んでいたら優奈を馬鹿だと言いきれやしない。馬鹿という方が馬鹿なんですって理論が成り立ってしまうからな。
川辺を進むと森の中を進むのとは違った景色が広がっていた。一面に広がる木々ではなく警戒心の高い野生の動物達が水を飲む様だ。さながら動物園のようで少しだけ気分が高まる。そのさなかでゴブリンが出てこなければもっと良かったんだけど……それは求めすぎか。
◇◇◇
「……これは民家か」
「跡地っぽいな」
明らかに人口っぽい家が数軒。
川沿いを進んでいた俺達の目の前に元村のような場所が見えた。それでも見ただけで何で元村なのかっているのは分かる。川沿いであり、屋根となる場所は人だけではなく化け物にとっても生きるのに適している場所らしい。
「……戦闘準備、何かあるかもしれない」
「分担しよう。俺は陽菜と戦うから」
「ああ、俺は大和と優奈と三人で潰すよ」
グーで一度、手を合わせあってから秀が陽菜を抱えて奥へと走っていった。その間にも魔法を放っている当たり陽菜らしい。後ろをついていこうとした魔物がいたけど撃ってコチラへ、ヘイトを向かせる。
「優奈は受けるだけでいい。大和は殴ってくれ。俺は二人の手助けをする」
俺から出来るオーダーはこれくらいだ。
少なくとも今まで戦っていたような少数の敵ではない。今回は村を滅ぼしたであろうゴブリン達を殲滅する。ニーナを構えて一気に四発を撃ち込んだ。すぐさまなるリロード音、同時に隣にいた優奈が走り出す。
三度目ともなると上手く弾く方法を掴んだようでゴブリンを盾で飛ばしていた。そこで優奈を脅威と感じたゴブリン達が倒しに向かう。まぁ、それだけが理由ではなさそうだけどな。野良のゴブリンとは違って群れとなると繁殖行動も覚えているみたいだ。つまり、気持ちが悪くて腹が立つ。
大切な友達にそんな視線を向けられる。
例え相手が人であろうと嬉しいことでは絶対にないな。ニーナを構える。大和が動いてからでいいんだ。息を合わせることが殲滅の鍵。前へ出過ぎてヘイトを買えば俺が潰されてしまうだけ。後衛の立場をよく理解しろ。
「奪取」
「クガッ!?」
いきなりゴブリンの目が開かれる。
大和のいつも以上の速さがゴブリン達からしたら脅威なんだろう。少なくとも優奈の攻撃は薄皮を削るだけ。一回の殴りで一体を持っていく大和と優奈を天秤にかけているんだ。馬鹿は馬鹿なりに考えると言ったがそれはコイツらにも当てはまるだろう。だからこそ油断は出来ない。
「優奈さがれ!」
「分かった!」
優奈が下がってくれれば後は簡単だ。
俺への攻撃を優奈が流してくれるってだけでニーナを撃ち込める。近距離が出来ない俺だからこそ皆を上手く扱えるんだ。ゲームで何度も経験したことだろ。こうしてくれっていうオーダーは俺でも出来る。
「大和はヘイトを稼いだままでいてくれ! 優奈はニーナをリロードする時間を稼ぐ!」
「任せろ」
「いけるよ!」
狩りながら少しずつ奥へと進んでいく。
馬鹿は馬鹿なりに頭を使っても馬鹿なことには変わりないんだ。いや、一個の洗脳された団体だって言った方がいいのか。ただ向かって玉砕することが正義だと思っている。大和に向かっていったり俺に向かってきたり、勝てないということや逃げるってことが頭にないんだろう。戦いやすいってもんだな。
「リロード!」
「ふっ!」
「撃てる!」
何発撃った? 覚えていない……。
少なくとも二十回以上はリロードしている。MPが本格的に無くなってきたのか意識的にも気持ちが悪くなってきた。一気に使い過ぎたことと慣れていないことが重なったか……。唾を飲み込んで気持ちを切り替える。マイナスな考えは思考停止をもたらすだけだ。考えるな、敵を減らすことを考えろ。
見えているだけで……後十体弱。それも七体はゴブリンリーダーだ。リロード……キツいな。MPに関しては俺も何とかするってことは出来ないわけだし。それに大和はまだしも優奈は俺を守るために結界とかを多用している。だから、俺も優奈も似たようなものだ。
MPはかなり減っているからな。リロードも出来ているが意識が飛ぶ可能性もゼロではない。ここら辺も慣れるようにしておこう。四発撃って優奈の裏に隠れる。確認した、当たったのは二体だけってことはかなり精度が落ちたな。深呼吸をするんだ。優奈がいるだけで俺への攻撃はゼロに近いんだから、この小さな背中を頼るんだ。
この中で一切の表情の変化がない大和はさすがとしか言いようがない。空手で習った動き方でも真似ているのか。よく分からないけど俺と同じ数は倒しているはずなのに涼しい顔をしたままだ。あっさりと四体を一気に倒しているのを見るのは辛くはあるが頼もしくも感じる。
「グギャギャ!」
「お前で最後だ!」
最後の一体が優奈に向かっていたが頭に剣を突き刺して倒しきっていた。優奈の腕力で刺したというよりは走っていた速度も相まって自分から刺さりに行ったって感じか。それでも一緒に戦っている間に一気に動きが良くなっている。
「……いや、もう一体だ」
「明らかに格が違うよな」
大和が言う理由も分かる。
大きな両手剣を肩に担ぎながら悠々と歩いてくる様はまさに将軍と呼んでいい。ただゴブリン種の本当に将軍を冠する名前かは不明だけどな。今まででも俺達には辛かったのにもっと強い敵が現れたかと思うと……いや、弱音はなしだ。
「グギッ?」
「ひっ……」
優奈を見て気持ち悪い顔を笑顔にさせてきた。笑顔なんだよな、口元を三日月形に裂いただけとも言えるけど優奈を狙っているのは間違いがない。なおさら……許せるわけがないよな。優奈を狙ったっていうだけで死に値するんだ。
「ニーナ!」
「ギィ!」
さすがに……しっかりと受けてくれるわけがないよな。その程度の敵ならばこんなにも堂々と近付いてこないはずだ。撃った弾丸は剣で流されて家の壁にぶち当たる。あのゴブリンが持つだけの武器なんだろう。弾丸で簡単に折れるってことは無かった。
「おらぁ!」
「ギッ!」
ガードした剣を大和がぶん殴って飛ばしたけどダメージには繋がっていない。大和でも大したダメージがない以上、優奈だとゼロに近いだろう。そうなるとダメージを与えられるのは俺だけだ。いや、大和の能力を使えば……。
「奪取は相手のステータスを奪えるのか?」
「無理だ! 感覚で分かるが奪えるのは自然現象を成り立たせる何かだけ!」
つまり最強の固有スキルではないってことか。
自然現象を成り立たせる……それなら受けるダメージを相手にぶつけるとかも無理だろうな。なおさら俺が重要だ。まずは足を止めることからだな。ニーナで狙うは足の先に近い部分だ。
「足を止める!」
足を撃ったがまた剣で弾かれてしまう。
遠距離で撃つだけでは倒しきることは出来なさそうだな。こういうところで陽菜の助けがないのが辛すぎる。少なくとも防御はE以上はあるのは確定だろうな。銃弾を恐れている当たり俺を警戒しているんだと思う。このまま距離を離したままで戦うのは時間を浪費しているだけだな。
「距離を詰める!」
「危険だ! やめておけ!」
「そうじゃないと倒しきれない!」
元民家であっただろう家まで走って少しだけ距離を詰める。ゴブリンの死体のせいで動きづらいけど活用させてもらおうか。どうせ、価値は低いだろうからな。大和の静止で目の前の敵を倒せるのならいくらでも待ってやるさ。だけど、仲間を傷付けられるのだけは死んでもゴメンだ。
「優奈!」
「なに!?」
「信じているからな!」
一番に小さなゴブリンを投げ付ける。
さて、どうでるのか。ここで相手の立ち回り方を見させてもらおう。……ゴブリンを剣で薙ぎ倒したな。剣で、という点がかなり情報としては大きい。つまり何かが向かってくれば剣で対処せざるを得ないんだろう。それか俺からの攻撃だからこそ、剣で対応したとも取れるか。
「ふっ!」
「グギィ!」
……繋がった、俺からの攻撃だからこそ剣で対応しているんだ。ゴブリンの中でもかなりの上位種なんだろう。両手剣で戦うことでの隙の大きさを本能で理解しているんだ。ここで攻撃をしてくれた大和に感謝だな。もう一度、ゴブリンを投げ付ける。さあ、剣で弾け!
「ギィ!」
ウザったそうに剣で弾いた!
それを見届けてからナイフを投げ込む。ダメージを求めているわけではないからな。手に刺さっただけまだいい方だ。それに俺へのヘイトが強く向いてくれた。同じようにゴブリンを投げ付けてやる。向かってこい! もっと怒れ!
俺は優奈を信じよう。馬鹿を信じよう。
大怪我をしたのならその時は責任を取ってもらえばいいさ。少なくとも死ぬなんてことは考えないでおこう。死ぬ気なんてサラサラないからな。俺の生存力はゴキブリ並みだ。手足がもげようと、もがき生き続けてやろう。
少し大きめのゴブリンを投げると同時にナイフを三本投げた。これでナイフは空だ。キチンと対応の仕方を覚えたようで弾かれて終わる。でも、そこまで大振りに両手剣を振り回したら戻せないよな!
「ニーナ!」
「グギィ……ッ!」
四発、全てを当てきった。
右腕に二発と顔を庇って左腕に一発、加えていきなり変化するリコイルのせいで左足の先に一発。すぐに横に飛んで回転しながらニーナに手をかざす。ガチャと小さく鳴った音とともに撃ち込む。ゴブリンは草臥れた民家にぶつかって顔を出しはしない。気を抜くな、一撃でももらえば簡単に死んでしまう。
現れた……が、殺し切れなかったことはかなりヤバいな。ゴブリンの上位種ともなれば馬鹿と言いきれやしない。また同じことをしたとしても対処されて終わるだろう。今の攻撃で頭に撃ち込んでおきたかった。それが出来なかった時点で死を覚悟しなければいけない。……簡単に死ぬ気はないけどな。
「グガァァァ!」
「ウオォォォ!」
怒り狂って走りながら近付いてきたゴブリンに俺も本気で走る。死ぬ気なんて無くとも倒すだけの覚悟は持て。大和が倒せない以上は俺が戦わなくてはいけない。俺はなんだ、俺は雑魚だ。雑魚は雑魚なりに勇気を持つ。優奈は優奈なりに戦ってくれたようにな。
縦に振り下ろされた剣を体を回転させて回避する。賭けるんだ、賭けて賭けて賭けまくれ。今だって優奈の助けがあったんだ。近付きながら剣を蹴って飛び上がる。早めに剣の上に乗れて良かった。地面を抉りながら横に流れていく。そのままでいれば俺ごと吹き飛ばされていただろう。
飛び上がった先はゴブリンの眼前。
手を伸ばしてくる、でも、さっきの攻撃で分かっているんだよ。剣で弾くことは出来ても銃弾を耐えることは出来ないってな。これでダメージを与えられるのなら……最後まで勝つためのイメージを絶やさずに攻撃をする。
「貫け!」
「ギィ……!」
太い腕を手の甲から銃弾が貫いていく。
一発でそこまでいけるはずなんてないからな。ここはニーナの連射速度を信じるしかない。全ては不確定要素で成り立つ。それが戦いなんだと俺は思うんだ。不確定要素なら賭けることしか出来ないじゃないか。
ゴブリンが剣を手放し左手で薙いでくるが寸前で止まる。信じよう、それが本当に雑魚なりに出来る強者の倒し方だ。そして俺は勝つ、信じた優奈の結界で動揺したゴブリンの気持ち悪い顔に直接、撃ち込めるんだからな。醜く恐怖へと変容したゴブリンの目にしっかりと俺の顔を映してやろう。この雑魚の最高な笑顔をな!
「じゃあな!」
「ギャアァァァァァ!」
額に一発と鼻先に一発だ。
まるで魂の抜けたような人形のようにゴブリンが膝を折って倒れていく。きっとコイツが廃村の長だったんだろう。……雑魚を舐めるな。とはいえ、俺のおかげで勝てたわけでもないが。まぁ、アレだな。優奈やニーナにはしっかり感謝しておこう。特にニーナの手入れは忘れないようにしないとな。軽くニーナを撫でてリロードをしておいた。後は……大和と優奈に任せよう。そのままゴブリンの死体の傍に腰を下ろした。
書いているうちに無能と題している主人公が強く見えるように書かれていることに疑問を持ち始めました。実際は武器が強いおかげなんですけど……本当にこれでいいのかな。
次回こそは三月の二日に投稿します。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。