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序章十話 強化

「あの……起きてくれません……?」

「……ああ……」


 半開きの目が何かを見ていた。

 陽菜の顔だ。すぐ間近に陽菜の顔がある。少し顔を近づければ触れ合うような距離。俺は……なるほど、寝た後に陽菜を抱きしめてしまったのか。それもこれも優奈のせいだな、申し訳ない。


「悪いな……」

「零の寝起きの声ってそんな低かったんだね」

「んあ……そう、か……?」


 意識はしていない。

 ただ聞き取りづらいだろうから声は少しだけ高めを意識はしていたな。この声だと陽菜が聞いたことのない声になってしまうのか。……そう思うと恥ずかしいな。本当の声で話しているとしか思えなくなってくる。


「あまり大きい声を出さない」

「……ごめん」

「優奈が起きたら煩いからね」


 それは……言えているか。

 声のことを気にしていて陽菜を離すのを忘れていた。どうせ、私には抱きついてくれないのにとか騒ぐに決まっている。そっと離してから陽菜の顔を見る。別に嫌がっている素振りはないか。俺が鈍感なだけで傷つけている可能性もある。つまりは……。


「抱き枕にしてごめん。次からは離れて寝るよ」

「そんなことで怒らないよ。まぁ、初めて男の人に抱きつかれていたわけだけど」


 小さな初めてだけどそれは男の俺からしたらだ。

 陽菜は腐女子ではあれ、立派な女の子。それを勘違いして馬鹿にしていた男達もいたけどな。純粋に現実と空想を混ぜ込んじゃう癖があるだけで、日記に乙女全開なお話を書いていることも知っている。ってか、読まされたことがあったし。声優志望なら読んでみてよって。


「嫌だったら申し訳ないからな」

「嫌ではないかな、別に異性とか同性とか考える前に嫌いな人ではないから。これが大和とかだったら魔眼で魘させていたけど」

「……そう」


 魘されるのは嫌だな。

 陽菜は大和が嫌い、って言うのは冗談だろうな。嫌ならまず遠ざけるし、嫌いと言うよりはそういう時に名前をあげやすいっていうだけだ。俺も時々やるからな。


「起きようか」

「そうだね」


 先に起きて陽菜の手を引っ張って起こす。

 大口をあけて広がって寝る優奈を見ると笑えてしまうな。普段の優奈を見るとこんな姿を想像出来ないし。起こしてあげるべきか悩んでしまう。とはいえ、他の皆は起きているし起こさないってことは出来ないんだけどな。


「起きろー」

「ひ……痛……えへ……」


 背筋がゾッとした。

 軽く頬を叩いただけでここまで恍惚とした顔を出来るっていうのか。昨日のアレは本当に優奈を表した返事だったんだな。俺に話す時のアレは本当に片鱗でしかないのか。……悪いけど気持ちが悪すぎる。


「……氷に近き水は如何なるものの意識を覚まさせるだろう、ウォーター」

「ふぁ、つべ! へ!?」


 ようやく起きたのか、お姫様は。

 小さく親指を立てて陽菜に感謝の意を示しておく。どうしても近づいて揺すって起こすとか、そういうことをしたくなくなるようなことを優奈がしていたしな。こういうところで職業が聖騎士である理由が何となく分かってしまう。


「起きろ、皆の準備は出来ているぞ」


 俺は俺で毛布を丸めておいた。

 また拠点として置いたここに戻ってくるかもしれないし戻ってこないかもしれない。少なくともマジックバックのおかげでかなりのものを持ち運び可能だからな。大和や秀も自分達の毛布を陽菜に渡している当たり運んでいくんだろう。このまま朝食は食べないのかもしれない。食べてもいいけど時間の無駄だろうな。昨日の肉が腹にまだ溜まっているし食べられる気がしない。


 チラッと横を見る。バタバタと暴れている優奈を見るのは楽しい。本当に馬鹿だと思うけどこういうところで気分が落ち着くからな。陽菜も濡らした優奈の服を乾かしてあげているし本当に良いコンビだろう。


 外へ出てみるとかなり快晴に近い天気だ。ゴブリンリーダーとは違う食べ物が見つかるといいな。街へ着いたならそれはそれでいいが早い気もする。どちらにせよ、やらなければいけないことが多すぎるな。


「早く行こうか」

「おー!」


 鉄で出来た鎧を着た優奈が剣を掲げる。

 反対側の手には盾を装備している当たり準備は出来たんだろう。反応を伺っているようだけど無視をしてニーナを構えて大和の後ろを行く。昨日よりは少しだけ体が軽いような気がするな。少しでもステータスが上がってくれたことを期待しようか。


 大和が進んでいくのは丘の先だ。

 昨日いた場所の反対側を進むことを決めていたようだね。俺が寝ている間に……というか、大和の寝る時間は最初の二時間と最後の数時間しかないはずなのによく起きれている。起きていなければ進む方向なんて定まっているわけがないし。


「ゴブリンが出てきた」

「私が行くよ!」


 突撃しながら回転斬りをしようとしたみたいだけど手前で空ぶったな。そこを見てゴブリンが突撃してきたみたいだが……まぁ、そんなチャンスで撃たないってことは出来ないからな。ニーナを構えて撃たせてもらった。一体だけなら優奈でも対処出来るだろう。


「は!」


 転びながらもゴブリンの攻撃を盾で弾いてみたいだ。そこを攻撃したみたいだけど物理攻撃力が低過ぎたな。浅い傷を付けただけで終わってしまった。ゴブリンは小さなナイフ、優奈は剣なのだからリーチを考えて戦えば倒しやすいだろう。それでも攻撃したところで俺レベルの低い攻撃ステータスがネックになっている。だから、俺が言えるのはこれだけだ。


「優奈!」

「なに!?」

「頑張れ!」


 応援だけで優奈には頑張る起爆剤になる。

 優奈は馬鹿だ、秀みたいに考えながら戦い方を決めるなんて出来やしないだろう。だからといって優奈が負ける理由になんてならない。昨日の覚悟が本当なら優奈は本気で強くなろうとするはずだからな。


「結界!」

「フギャ!?」


 突撃してきたと同時に目の前に結界を作り出したみたいだ。顔面をぶつけてよろめいているゴブリンを後目に剣を構えている。ほらな、馬鹿は馬鹿なりに考えて戦うものだ。そのまま結界が無くなって剣に吸い込まれるようにゴブリンが倒れ込んでいた。……なんというか、優奈らしい幸運だ。さすがは固有スキルに幸運があるだけはある。


「頑張った!」

「はいはい、よくやった」


 剣をブンブン振り回しながら俺に抱きつくな。

 血とかなら陽菜に何とかしてもらえるから良いけど怪我は簡単に治りはしない。それにこれで大和や秀のような一撃なら俺は死んでしまうしな。頭を突き出してきたが無視してニーナを構え直す。


「どちらにせよ、援軍だな」

「ここは俺達の番か」

「先に行っておくけど千本桜とかいう技は禁止だからな。雑魚相手なら消費MPは最低限でやれ」


 現れたのはゴブリンリーダーだ。

 後は数体のゴブリン、そんな奴らに昨日みたいな派手なだけの技を使うべきではない。剣の生成だって俺には分からんがかなりの消耗をしそうだしな。まだ昨日はすぐに帰るからと注意は不必要だが今回は違う。旅はこれからだ。祝砲代わりにニーナをリコイルしながら撃ち込んでいく。


 確かに一撃ならば俺のニーナの攻撃が強いが、いかんせん四発という重荷を背負うことになる。四発で確殺を持って行ける今ならまだいいが、そこら辺が俺のネックになってきそうだな。その頃にはもっと俺も経験を積めるだろうから強みとなる部分もあるかもしれないが……自信はない。


 ニーナを撫でて再度、構える。

 でも、目で撃ち込んだ場所を見てやめた。


「……早すぎなんだよな」

「三体も倒したお前が言うか。それもゴブリンリーダーを三体とか……」

「一体、残してやったんだから感謝しろ」


 少なくとも俺は強くならなければいけない。

 いつかは後悔することになる、弱さに甘えて戦わないのも一つのやり方だ。恐れから足を止めることは誰だって出来る。それでも、こうやって勇気を出して戦うっていうのは誰でも出来る話ではないはずだ。


「さて、次だ」

「……その転換はどうやったら出来るんだよ」

「経験値がないと強くなれないだろ。皆と話すのは嫌いじゃないが現状、優先すべきなのは強くなることや力に慣れること。そう考えると簡単に気持ちを切り替えられるさ」


 ステータスを見る。




 ______________________

 名前 菅野スガノ レイ

 職業 無職

 年齢 15歳

 レベル 12

 HP 68/68

 MP 125/129

 物攻 G

 物防 G

 魔攻 G

 魔防 G

 速度 G

 幸運 G

 固有スキル

 ???

 スキル

 銃術F

 魔法

 火G

 装備

 ニューナンブM60(アーティファクト)

 ______________________




 かなりレベルが上がっているな。

 思いの外、経験値の実りが良いみたいだ。ゴブリンやゴブリンリーダーといった雑魚としか思えない敵でもこれだけ強くなれる。それでもステータスのアルファベットが強くならないのは上昇値が少ないからなのか。でも、陽菜が言っていた。少しずつでも強くなっているってな。


 MPの消費は……玉のリロードのせいかな。

 それでもMPが一で玉が一発の生成だとすればかなり効率がいい。ニーナに頼めば玉を瞬時に生成出来るのも戦いやすさに繋がってくるな。ステータスの低い俺でもかなり扱いやすい武器だ。


「やるぞ、俺達が想像するよりも時間は早く経つからな」

「はぁ、いっちょやったりますか」

「ああ、強くなって帰ろうな」


 ニーナを撫でながら最初の陣営のままで奥へと進んでいく。次に出会う魔物もゴブリンか、もしくは最初に戦ったオークか。どちらにせよ、俺達が負けるわけにはいかないな。強くなるための糧になってもらおう。


 少しだけ奥へと進む。

 森の中だ、物音は敏感になるし途中で出てくる時もある。それなのにゴブリンばかりで味気なさも感じてしまうな。ニーナで撃つか、陽菜の魔法で貫かれるか、大和の正拳突きか、秀の一突きか、このどれかで落とされている。優奈だけ譲ってはいないから倒せていないけど。


「……またゴブリンだ」

「次は私がやるよー」

「仕方ないか、一瞬で終わったら意味が無さすぎるし」


 皆、同意見のようだ。

 陽菜も魔法を使うせいで本当に優奈に戦ってもらう暇が無かったからな。優奈に前へ行かせるくらいなら俺が撃った方が早い。というか、四体以上で現れなければ俺、もといニーナで十分だ。突撃させてゴブリン三体とぶつからせる。さすがに三体の一撃を盾で受けていたみたいで力負けはしたみたいだ。


 そこをゴブリンが攻撃したようだけど優奈の表情に一切の変化はない。ボロボロのナイフが鎧にぶつかって、それでも優奈の防御のせいで大してダメージには、というか、一切のダメージはないんじゃないか? それでもさすがは戦闘初心者。俺達のようにゲームとかをやる人じゃないから立ち回りが弱いな。


「優奈!」

「ん? なに?」


 ……いや、それを最初っから使えよ。

 俺と話したくて無意識に結界を張ったんだろうけど、それをすれば簡単にタイマンに持ち込めるっていうのにさ。それに戦闘中のよそ見は俺から話しかけたとはいえ、絶対にやってはいけないことだ。俺なら耳だけを集中させて聞くかな。


「戦うのなら一体一だ。多数対一だと必ず部が悪くなる」

「ふぅん、で?」


 でって……さすがは馬鹿だ。

 今、使っていることをすればいいだけなのに。そうやって余裕ぶってゴブリン三体を簡単に止めている結界を利用すればいいだけなのに……はぁ、本当にコイツは馬鹿だ。


「自分で考えろ」

「はぁ!? 教えてくれてもいいじゃん!」


 自分で考えろ馬鹿が。

 ちなみにその後の戦いは完全な泥試合だった。先程のような機転を利かせた行動は一切なくダメージのない優奈の圧勝。ただの耐久対決だったから優奈が負けるはずがない。見ているこっちからしたら焦れったいけどな。


 その後は援軍もなかったため進んだ。

 大きな音を立てたせいでハグレゴブリンは何体も出てくるから進みながら倒していく。そうして少しだけ開けた場所に出た。とはいえ、人のいる気配がある場所ではないが。


「川か……」

「これはこれで大きな発見だけどな」


 秀がそう言ったのも分かる。

 人の文明が発展してきた場所は等しく大きな川の近くだ。人が生きていくためには水だって必要不可欠だからな。もしも同じように川を利用して発展している文明があるのなら、この川の近くを進んでいけばいい。


「どうする?」

「どうするって何が?」

「……これだから馬鹿は……」

「馬鹿って言うなー!」


 そうやって大きな声で否定する当たり本当に馬鹿なんだと思う。森の中で騒げばどうなるかなんて決まっていることだからな。川から小さな泡が漏れ出して何かが現れる。図鑑でしか見たことのない姿だ。


「ワニか……」

魔法や魔眼の概念は後々、書いていこうと思います。

また作者は技や人の名前を考えるセンスがないので「千本桜」のようなカッコよさそうな技は今後、出ない可能性が高いです。……「卍解」みたいなセンスのある言葉を作れるようになりたいです。


次回は三月の二日の予定です。

お楽しみに!

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