序章一話 再会
初めまして、もしくはお久しぶり(?)です。
この作品はあらすじでも書いたように他の作品を書いている時に溜まってしまった作品です。少しだけ途中で書いて辞めてしまった作品の要素なども含んで書いています。詳しくは後書きで書かせて頂きます。
ーー死ぬな!ーー
ーー死ぬな!ーー
ーー俺はまだお前に……ーー
俺の声は目の前の少女に届きはしない。
酷く悪い夢を見た。希望も無い夢を見たくて眠りについたわけではないのに。思いっ切り舌打ちをしたくなってしまう。寝覚めも良くないな。ぐっすりと眠れていたはずなのに……起こしやがって。こちとら疲れているんだよ。こんな変な夢を見るくらいにはな。
「零って今日はバイト休みか」
「……いきなりどうした?」
帰りのホームルームも終わっていないというのに大声で聞いてくる男。用事自体は……課題が少しだけある程度か。バイトは昨日やめたし。というか、バイトをやめたことを学校に話していなかったな。やっぱり、用事はあるわ。
「実はな、中学校の時のアイツらがいるだろ。カラオケで久しぶりに会わないかって連絡が来たんだよ。暇なら一緒にどうかって思ってな」
「あー……バイト辞めたことの報告で行けないと思うわ。他を当たって」
「ヒデが逃げるのか、だってさ」
はっ、煽りにしては弱過ぎるな。そんなのに引っかかってばかりいたら時間なんていくらあっても足りない。俺は早く帰って今日の声優ラジオを聞かなくちゃいけないんだ。そんな過去に引きずられるほど暇があるわけじゃ。
「ヒデが来るのなら過去の声ラジの台本をあげてもいいだってさ。何か声優学校に行ったらもらえたらしいぜ。お前が好きだったのを聞いたからって」
「ふん、行くに決まっている。早く帰るぞ」
「はい、零くんも大和くんもまだホームルームは終わって、いえ、そもそも始まってもいませんよー」
こんな時に限って遅くに教室に入ってきた担任に腹が立つ。いや、少しの我慢だ。もう少しだけ我慢すればMCであったドグラさん達が読んだであろう台本が手に入る。ふっふっふ、胸が高鳴ってくるじゃないか。
いつもと変わらない街並みを担任の話を聞き流しながら眺める。何か俺の食事を動かせることが起きないかと強く思った。早く大人になりたい。大人になれば今以上にお金を自由に使えるんだろう。大好きな声優のドグラさんに会いたいし高校を卒業したら声優学校に通いたい。
それでも働きたくはないな。誰か俺を養ってくれないか……何て聞けるわけもない。ましてや彼女の相手をするのも面倒だし、根本的に彼女を作る行為自体が面倒だ。ヒモになりたいけど俺には関わらないで欲しい。考えれば考えるほど屑だな。
「ほれ、早く行こうぜ」
「ああ、担任の話が長いんだよな」
俺の返事に頭を掻きながら「全くだ」と返してくる大和。こいつは変わらないな。将来はこいつに養ってもらおうか。……いや、違う意味で問題点が多すぎるからやめておこう。
俺達の通う高校は私立だ。市内では公立よりもレベルが高いし何よりも学費の割にはリターンが多めだ。本の量や部費などの設備投資には糸目をつけない。一番にありがたかったことは学校所有のバスが観光地や生徒の家の近くのバス停まで動いてくれることだ。市直営のバスだと本数が少ないし足がない俺達にはありがたすぎる。
小さく感謝しながら大和と隣同士でバスに座り駅前まで向かう。歩いて一時間はかかる距離を二十分程度で進み大和の後ろを歩いた。昨夜、入れたばかりのお気に入りの曲を流してヘッドフォンを付ける。大和の声は薄らとだけ聞こえているから大丈夫だ。
「何の曲、聞いているんだ?」
「あー、歌ってみた系とドグラさんのアニソンだよ」
「カラオケで歌うのか?」
歌う……いや、歌いたくはないな。
一人で歌うのならまだしも誰かに聞かせたいという意欲は特にはない。大和のように陽キャラで高校生活謳歌していますってタイプではない。あんな毎日のようにカラオケに行って体が持つ時点で化け物にしか思えないし。
「国家だけ歌ってやるよ」
「いやいやいや、初手でそれ歌われた時の他の人達の気持ちも考えてくれや」
うるせぇ、歌いたくないと言ったら歌いたくないんだよ。俺の目的は台本でしかない。それさえ貰えれば少し時間を潰して帰るだけだ。それ以上の必要性がないな。国家を歌ってやるだけ感謝して欲しいものだ。
「お前は何でそんなに歌とか色んなことが出来るのにやらないんだ……」
呆れたように、さぞ分からなそうに呟く。
なぜって……一つしかないだろう。というか、何度も皆には話していると思うんだけどな。俺は努力なんて嫌いだ、勉強なんて嫌いだ。もし第三者からの評価が高い項目があるのなら、その才能にぶら下がって生きていたい。当然、好きなことなら努力ではないからやり続けられるしな。歌が上手いと思われているのならそのせいだ。
そして一つの着地で終わる。
「面倒なのは嫌いなんだよ。俺は静かに生きたいの。ブスでもいいから養ってくれる人なら大歓迎さ。可愛くて声優みたいな綺麗な声ならなおよしだ」
「低そうで高い話だな。まず男一人を養える時点でかなりの給料だぞ……それ……」
分かっているから高校に通っているだろうに。
別に働かないとは言っていない。俺が進もうとしている道は声優としての、いや、声優に関われるような仕事になりたいだけだ。そうでもなければ学費がバカ高くて頭もそれなりになければ通えない学校に通いはしない。
一年に四回のテストがあり、一度でも全教科の一単位でも六十点以下を取れば一発で進学コースからは落とされてしまう。まぁ、話だけ聞けば難しそうだけど覚える範囲はかなり狭くしてくれているから落ちる人は少ないけどな。
「と、着いたな」
「……カラオケとか何年ぶりだろう」
「は? ヒトカラとかもしなかったのか?」
ヒトカラ……ああ、一人カラオケか。
一人カラオケをしなかったのかって、それならカラオケまで行く必要性がなくないか。純粋に歌いたいのなら家でも歌えるだろうに。俺は点数が目的で行くわけじゃないからな。ただ気持ちよく歌いたいだけだから誰かと一緒じゃなければ……いや、誰かがいたとしても行きたくはねぇな。
「面倒なんだよ」
「またそれかい……。じゃあ、部屋まで行くか」
「変なことをしたら叫ぶからな」
「ふっ、それはしたいってことか?」
笑って聞いてくる大和に返答として大きなため息をついてやった。付属で気持ち悪い目で見るのも忘れない。男が好きなんじゃないのに金目当てで男とくっつくほど落ちぶれてはいない。もしそうなるとすれば最終手段だ。
「162……と、ここだ」
「……暗くね?」
そう、大和が連れてきた部屋は真っ暗だった。
あれ、とか、おかしいな、とか言っている大和を見る限り嘘をついているようには見えない。仕方ないので軽く小突いてから扉をノックしてみる。大和を小突いたのは日頃の恨みだ。
「合言葉をどうぞ」
「は? 合言葉?」
「そうです、零君の大切な女の元同級生である私は誰でしょう」
……女の声だからヒデではなさそうだな。
となると、どちらかが正解。この声はどっちだったっけな。もっと言うのならどちらの方がこういうイタズラをしそうか。こんな長ったらしい馬鹿みたいなことを言いそうか。そう考えると……難しいけどこれが正解だな。
「優奈、俺の最愛の小田嶋優奈だろ」
「さ、最愛って……えへへ」
「気持ち悪い笑い方をするな」
抑える力が弱くなったので無理やりこじ開ける。
そんな分かりやすい世辞で喜ぶなんてどれだけ脳内お花畑なんだろうか。違う高校に行ってから大丈夫……だよな。男の噂はなぜか一切たたなかったくらいにガードは固いし。ってか、俺の最愛の人ってだけでどれだけ喜んでいるんだよ。純情な俺の心を抉ってくるな。
「いったいんだけど!?」
「扉前で遊んでいるバカが悪い」
「バカだけどバカじゃないもん!」
面倒くせぇ……変わっていないのが余計に面倒臭さを強めてきている。いや、合わなかった分だけ耐性が減ってきているな。顔はいいのに何で行動がこんなにも残念なんだ……。茶髪のショートヘアーを掻きながら、その鋭い目で睨んでくるのはやめて欲しい。自業自得だろ、明らかに。
「許してやれよ、優奈だって零に逢いたくて楽しみにしていたんだからさ」
「……はいはい、お前の差し金だな」
俺の言葉に「バレたか」と悪びれる様子もなく笑う男。あの顔を見るのは何度目だか。それでも嫌っていたならもっと前から縁を切っていたけど。というか、本当に一緒にいないと耐性って減るんだな。扱いを忘れた。
「ヒデ、元気そうでよかったよ」
俺達よりも頭の良い高校へ進学した朝比奈秀。
絶対に忘れられない俺の唯一のパートナーだ。面倒だとは思ったが案外とこの笑顔を見ると来て正解だったと思う。心から楽しそうに笑うヒデを見て喜んでいる自分がいるしな。
「それはお互い様だ。ほら、例のブツだぜ」
「サンキュ」
白い紙に包まれた長方形の何か。
言い方からしてヤバいもののイメージしか湧かないが秀の手前、そんなことをするわけがない。とりあえずは乗ってやるか。
「俺達と離れ離れだからって変な薬に溺れるのはダメだぞ」
「どこの有名女優だ。せっかく友達経由でそれを手に入れてやったのによ」
「悪ぃ、感謝しているよ」
笑い返すと「それでいいんだ」と席に座り直す。
目をキラキラさせながら隣をポンポンと叩く優奈を素通りして、静かに携帯を弄る誰かさんの隣に座った。それでようやく俺達の方を見て無表情からものすごく驚いた顔をされてしまう。いや、気づいていなかったのかよ……。
「零じゃん、変わっていないねー」
「数ヶ月で変わってたまるかよ」
「あははー、確かにぃ……?」
話し方からして分かりやすいな。
話し方だけは馬鹿っぽいのに……何でこいつは俺や大和、ってか、秀よりも頭がいいんだ? こいつの頭はおかしいのか? それともこれが天才だって神様は言いたいのか?
「いいのー? 優奈が話したそうだよー」
「別に陽菜と話し終えてから話せばいいだろ。話さないとは言っていないしな」
「確かに」
いきなり普通の話し方をするな。
ツッコミたくてもさすがに言えなかった。肩より前に出たおさげを後ろへ戻してメガネをクイッと整えている。芋臭さを感じる髪型や見た目なのに元がいいから勿体なさを感じてしまうな。後は腐女子なところが好き嫌いの分かれそうな点だけど。
「……何であんな変な話し方をしていたんだ?」
「最近、読んでいるBLの主人公の女幼馴染の話し方がさっきのだったんだよね。何となくどんな感じか使ってみていただけだよ」
そりゃあな、さすがに変な話し方は元からしていなかったと思う……いや、こいつは元からさっきみたいな話し方だったよな。よく分からないけどスイッチみたいなものがあるのか。変に押さないようにしよう。聞き取りづらいし。
「それじゃあ、歌いましょ! ほら、まずは零が歌って!」
「あー、はいはい」
何か開き直っている優奈にマイクを渡された。
選曲はされていないので勝手に選んでもいいってことでいいよな。それなら最初っから入れると決めていた曲を入れさせてもらおう。何度も歌った愛用の歌、国歌斉唱「君が代」だ。
「きーみーがーあー」
「何でオク上なの!?」
優奈のツッコミは無視だ無視。
大和が何か言いたげだったけど、まぁ、本当に歌うんだって気持ちになっているだけだろうし。俺の高音を舐めるなよ。低音域なら男性パート、高音域なら女性パートまで歌えるほどに音域は広いんだ。
「まーあぁでー」
「……そういや、こういう奴だったって久しぶりに感じたわ。良い歌声だったぜ」
「声優になるには歌えないとな」
点数はもちろんのこと九十前半だ。
後半も狙えただろうけど周囲を見ながら歌っていたから、これで十分だろう。ってか、この後に歌うつもりもないしな。俺が歌うのはこの曲だけだし。さて、俺に次いで九割を出せる奴はいるのかな。
※主人公は変人です。
※主人公は変人です。
※主人公は変人です。
大切なことなので三回言わせていただきました。
書きだめで序章が十七話まで、一章は九話まで書き終えているので一度、そこまで投稿しようと考えています。投稿頻度に関してですが未定で、忙しい時期でなければ一ヶ月おきに十話ほどを二日に一回ほどのペースで投稿すると思います。もしかしたら伸び次第で定期的に投稿するようになるかもしれないです。
メインで書いている作品の後書きで、こちらの作品の投稿に関して触れることもあるので、よろしければテンプレは異世界最強のようですの方も見てもらえるとありがたいです。三日間ほどは一日二話、八時と十七時の投稿をしていきます。次は十七時の投稿予定です。