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自分は狂虎に選ばれた魔人の一人なのだ。
女が前に進んだ。
牙狼と陽炎に向かってくる。
(やってやる!!)
牙狼が陽炎を放し、女めがけて跳んだ。
牙と爪で女を引き裂こうと迫る。
女の両眼が真っ赤に輝いた。
女が左手のひらを牙狼にかざす。
突如、その手のひらから細長くうねる触手が無数に飛び出した。
触手はお互いに束なり、槍先の如く変形する。
触手の槍は回転しながら突進し、牙狼の胸を簡単に刺し貫いた。
牙狼は大量に吐血すると、がくりとなり、動きを止めた。
女が触手を戻す。
牙狼の死体が地面に落ちる。
自由になった陽炎が顔を上げたうつ伏せとなり、低い姿勢のまま、女と相対した。
「あなたは…?」
陽炎が思わず訊いた。
女の瞳が陽炎に向く。
両眼の色は栗色へと戻っている。
「私は詩音」
女が名乗った。
「悪行非道で弱き者が虐げられるのを見過ごせぬゆえ、お前を助けた。気にすることはない。今回のお前は運が良かっただけ」