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静香が左隣に座る。
老人は気前よく、桜に食べ物を分け与えた。
空腹が満たされ、身体が温まり、桜は人心地ついた。
「ごちそうさまでした」
桜が老人に頭を下げる。
「良い良い」
老人が笑う。
「わしは若い娘が大好きでな。眼福、眼福」
そう言った老人の眼が細まる。
その視線が自分の胸をじっと見ていると、桜は気づいた。
「いやーーーっ!!」
桜のびんたが老人をぶっ飛ばした。
しばらく後。
「三途の川を途中まで渡ったわい」
左頬を真っ赤に腫らした老人が言った。
「すみません」
桜が顔を赤くして謝る。
「良い良い。わしは実は、こういうのも好きなんでな」
「は…はい?」
桜が戸惑った。
「わしは奇妙斎」
老人が名乗った。
桜と静香も名乗る。
「娘さんたちは、どこへ行くのかのう?」
「鬼道城へ参ります」
あっさりと素直に答える桜に「ふふふ」と静香が笑った。
(何と人を疑わぬこと。巫女とは、これほど純朴なのか。これではすぐに面倒事に巻き込まれよう)
静香の瞳が、きらりと輝く。
(しかし、血生臭い戦いを求め、二度目の生へと漕ぎだした身の私とすれば、そのほうが好都合か)
己の刀を見つめる。
(満たされぬ刃で、斬って斬って斬りまくるのみ)
「鬼道城とな?」
奇妙斎が首を傾げる。
「あんな廃城に何の用がある?」