8
「武士は甘えませぬか?」
竜丸が口を尖らせる。
蜜柑は、そんな弟がかわいくてならない。
「ええ、甘えませぬ。そんなことではボクにも勝てませぬよ」
蜜柑は自分を「ボク」と呼ぶ。
これも自分と周りの違いを感じるのが遠因か。
父母や近習に何度「女らしくない」と注意されようと今日まで貫き通している。
「姉様になら負けても良いのです」
竜丸が満面の笑顔を見せた。
これには背後の侍たちは呆れた顔を見せたが、侍女たちは竜丸のあまりのかわいさに、くすくすと笑った。
場が和やかになった、このとき。
突然、異変が起こった。
先頭を歩く蜜柑と竜丸の前方の空間が蜃気楼のように揺らめいたのだ。
その中から、ぞろぞろと六人の男たちが現れた。
一人は僧侶の出で立ちをしている。
年齢は四十ほどか。
錫杖を右手に持っている。
残りの五人は皆、黒い忍び装束だ。
一人を除いて皆、頭巾を被り、口元も隠している。
頭巾が無い男は、ぼさぼさの髪で、浅黒い肌の平べったい顔を晒していた。
三十代か。
ぼさぼさ頭の男は姉弟を見るや、「お」と声を上げた。
「よくやった、空怪」
ぼさぼさ頭が僧侶に言った。
「いやいや、狂虎様の言われる通りに飛んだまで」
僧侶、空怪が答える。
「飛刃、早う、竜丸を捕らえよ」