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火を吹くような夜叉姫の剣幕に、竜丸は気押された。
渋々、座っている夜叉姫の前に立つ。
見上げる夜叉姫と見下ろす竜丸、両者の眼が合った。
竜丸は夜叉姫の美しさに、はっとなった。
思わず眼を逸らす。
「わらわが父上にお願いして、竜丸を牢から出してもらったのじゃ」
夜叉姫が言った。
「何故じゃと思う?」
「え…」
またしても意表を突かれた竜丸は、答えに窮した。
「あの女たちに竜丸を盗られるからじゃ!!」
夜叉姫が怒鳴った。
地下牢の牡丹と桔梗のことを言っているようだ。
「盗られる?」
「そうじゃ」
夜叉姫が頷く。
「夫となる竜丸は、わらわだけの物。他の女どもには指一本、触れさせぬ!!」
夜叉姫の眼が、ぎらりと輝いた。
「ほ…本当に」
竜丸が訊いた。
「私と夫婦になるおつもりなのですか?」
「うむ。最初は父上の天下獲りのため、どんな嫌な相手であろうとも契る覚悟であったが、竜丸をひと眼見て安心した」
そう言うと夜叉姫は、にこりと笑った。
(なんと…)
竜丸は再び、はっとした。
激昂するときの夜叉姫は恐ろしくも美しいが、こうやって微笑んでいると、何やらかわいらしい。
竜丸の胸の鼓動が早まった。
「竜丸、着物を脱げ!!」
夜叉姫が突然、命じた。
「え…」
竜丸が混乱した。
「ええ!?」