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「狂虎様のような方が他に居るものか! お前の鼻もあてにはならないな!」
「しかし…」
そこまで言って、牙狼は押し黙った。
「もういい。とにかく、その男と女を追う。化彦は特に頑張らないとね。あはは! あははは!」
雑木林に鬼麿のかわいらしい笑い声が響き渡った。
鬼道城の豪奢な造りのとある部屋へと、竜丸は連れてこられた。
侍たちが竜丸を放し、外に出ていく。
「来たか、竜丸」
中央で座り、竜丸を迎えたのは夜叉姫であった。
部屋の装飾に負けない、きらびやかな打掛に身を包んでいる。
「近う寄れ」
夜叉姫が手招きする。
竜丸は、天下を治めきれない名ばかりの将軍家とはいえ、本来であれば主筋であると考えた。
すぐさま平伏し、夜叉姫へとにじり寄ろうとしたのだが。
「そんなことはせずとも良い! 早く来て、わらわの前に立つのじゃ!」
「え!?」
竜丸は戸惑った。
いくらなんでも夜叉姫に対して無礼であると思った。
「早くせよ!!」