72/204
72
「笑うな、鬼麿!」
化彦が怒る。
「だって」
鬼麿が鈴の音の鳴るような、かわいらしい声で再び笑った。
「意味のない心配をしているからさ」
「何!?」と化彦。
「狂虎様には、もう僕が報せたよ。『化彦が針蔵を殺されたのに、尻尾を巻いて逃げ戻りました』ってね」
「げぇっ!!」
化彦が青ざめた。
「鬼麿…よくも…」
「狂虎様は、その男と女を確実に殺せと仰せだよ。大仕事の前には、どんな小さな邪魔者も許してはならないと。これをしくじれば」
鬼麿が楽しそうに言う。
「化彦は命が無いね」
「ぐぐ…」
歯噛みする化彦。
「おい」
牙狼が地面から、二人に声をかけた。
「何だよ?」と鬼麿。
「もうひとつ臭いがする…何だ…これは!?」
「どうした?」
鬼麿が問う。
牙狼は自分の鼻が信じられないのか、何度も地面を嗅いだ。
二人に顔を向ける。
「狂虎様の匂いに似ている…」
「はあ?」
驚いた後、鬼麿がはじけるように笑いだした。