71/204
71
針蔵の死体の側に、その男たちは立っていた。
一人は化彦だ。
いったん退いた化彦が仲間を伴って再び、この場所へと帰ってきたのだった。
「牙狼、どうだ?」
化彦が地面に四つん這いになっている男に訊いた。
「ああ。二人、居るな。男と女だ」
地に伏した男、牙狼が答える。
牙狼の容姿は人の形ではあるが、全身に灰色の毛がびっしりと生え、尻には尾、顔は完全に狼のそれであった。
くんくんと鼻を動かしている。
「追えるか?」と化彦。
「ああ、今のところはな。雨が降らなけりゃ余裕だ」
牙狼の答えに化彦は胸を撫で下ろした。
それから急に不安になったのか「この不始末は狂虎様には黙っていてくれ」と泣き言を言い始めた。
「ははは」
化彦の隣に立つ、美しい少年が笑った。
十代半ばほどか。
深緑の一昔前の意匠の装束を着て、同じ色の薄布を両手で持ち、頭の上で被っている。
腰には刀が無いが、侍の風体ではあった。