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ある日の夕刻、小諸城の庭で「幽霊姫」蜜柑と竜丸は、二人で散歩を楽しんでいた。
すぐ後ろには、お付きの侍女が四人と警備の侍四人が付き従っている。
竜丸は、くりりとしたかわいらしい瞳で姉を見つめた。
その風貌は普段は優しいが、怒るととてつもなく恐ろしい顔つきとなる父、信竜ではなく優しい母、柚子によく似ていた。
そして、この姉弟が預かり知らぬことではあるが、逃亡生活中に命を落とした柚子の弟、すなわち竜丸の叔父にも似ているのだった。
竜丸は明るく、よく喋る。
「幽霊姫」と呼ばれる姉を少しも恐れず、「姉様、姉様」と甘えてくる。
一方の蜜柑は、やはり母に似て美しかった。
まだ大輪の花は開いてはいないが、すでに可憐な魅力は発揮されている。
ただ、皆に奇異な眼で見られ続けた反動からか、静かに考え込むことが多く、黙しているときの鋭い表情などは、父の信竜の面影を思い起こさせる。
が、さすがに気心の知れたかわいい弟と話す今は、普段はあまり感情を現さない蜜柑も、満面とは言わぬまでも、笑顔をふんだんに見せていた。
「姉様は竜丸が好きですか?」
姉の着物の袖を掴み、竜丸が訊いた。
「ふふ」
蜜柑が笑う。
「子供のようなことを言うでない。竜丸はもう、立派な武士ですよ」