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「我が名は武龍。お前には、これを見せよう」
武龍の両眼が強烈な青い光を放った。
これには隣の男も怪しい気配を感じ、眉をひそめた。
武龍から借りた刀に手をかける。
もし陽炎を害する行為が判明したなら、武龍を即座に斬り倒すつもりでいた。
一方、陽炎には武龍の瞳から膨大な情報が一瞬にして流れ込んでいた。
その全てを陽炎自身が体験したように感じる。
武龍の両眼の光が次第に収まっていく。
陽炎は、はっとなった。
武龍を見つめる。
「今のは…現実なのか…?」
武龍が頷く。
「お前に、この世の命運がかかっているとも言える」
「そんな…あなた様は本当に…」
陽炎が、そこで口を閉ざした。
「魔祓い師の居場所はもう、お前の頭の中に入っている。お前の里の者には私の術で、このところの記憶とお前の存在自体を忘れさせておく。事が全て片づいた後、思い出すようにしておこう」
先ほどの輝く双眸とは、まるで違う、澄んだ優しげな瞳が仮面の下から陽炎を見つめ返してくる。
「この役目は少しでも『魔』や、それに近い力を持つ者には頼めない。もちろん、その理由ゆえに私にも石を運ぶことが出来ないのだ。何も特殊な力を持たぬ、それでいて胆力と敵の妨害をかい潜れる体術を持つ者…それがお前だ」
そう言った武龍は、陽炎に頭を下げた。