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仮面剣士は男の横を通り過ぎ、陽炎へと進む。
仮面剣士の双眸が陽炎のそれを見つめる。
果てのない深い闇を覗き込んでいるような錯覚が、陽炎を襲った。
「陽炎という名か」
仮面剣士が言った。
(なっ!?)
陽炎は戸惑った。
この剣士、先ほどの戦いの中で自分の名を聞いていたのか?
「お前には重要な役割を担って欲しい」
「何を言っている!」
陽炎の怒声にも、仮面剣士は怯まない。
「これより教える魔祓い師の元へ赴き、『魔祓いの石』を取ってきてもらいたい。石は全ての魔を祓うが、特別な力を持たないお前ならば問題なく運べる」
「何の話だ…」
陽炎は小刀を下ろさない。
「何故、名すら知らない者の言うことを聞かねばならぬ? 馬鹿も休み休み言え。助けてもらった礼だけは言っておく」
そう言って陽炎は、その場を去ろうとした。
が。
「我が眼を見よ、陽炎!!」
仮面剣士の大声に、陽炎は動けなくなった。
身体が突然、石になったようだ。