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「この斬れ味。久しぶりにしっくりきた」
刀を振って、血を払う。
この顛末に化彦は顔色を失った。
魔力を持った針蔵が、ただの人間に敗れるなど、あり得ぬことであった。
「くそ…」
化彦は、うめいた。
男が刀を鞘に納める。
「お前の無法は気に入らないが、今なら見逃してやる。逃げたいなら逃げろ」
男が言った。
「顔は覚えたぞ!」
化彦が吐き捨てる。
「次は殺す!!」
化彦が、じりじりと退がり、ある程度の距離を取ってから姿を消した。
陽炎は小刀を構え、周りへと眼を走らせた。
男の左側、やや離れたところに一人の若い男が立っている。
十代半ばほどか。
少年であった。
藍色の着物に身を包んだ武士の風体。
顔には眼元だけを隠す白い仮面をつけている。
腰に脇差ししかないのは、この仮面剣士が男に自らの刀を投げ与えたということか。
「借りが出来たな」
男が仮面剣士に言った。
刀を返そうとするが、仮面剣士がそれを手で制する。
「しばし待て」