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「え? この皮から?」
春馬が首を傾げた。
「とりあえず、研究のために取っておくね」
春馬が脇差しを抜いて蛇皮の一部を切り、背中の箱に入れた。
「敵も本気だ。こっちも気を引きしめて、かからないとな」
隼人が険しい顔で言った。
蜜柑と春馬が頷いた。
闇夜の下。
陽炎は雑木林の草むらの中に伏していた。
黒の忍び装束である。
前方には鬼道城の大きく深い堀が見え、その先に二の丸がそびえ立っている。
小諸信竜の依頼を受け、仲間の焔と燐を伴って鬼道城の様子を探りにやって来た陽炎であった。
他の二人は違う場所を探索している。
(それにしても…)
陽炎は舌を巻いた。
里に居る折に、この地域を担当する忍びから鬼道城の復元については聞き及んでいたが、まさかこれほどまでの威容を取り戻すとは。
しかも短期間のうちにである。
さすがに、これほどの一大事は小諸家に伝えねばならなかったのではないか?
陽炎は思う。
しかし、頭領は依頼されぬ事柄をただで誰かに教えはしない。
どの家にも召し抱えられていない里の事情であるとは言えた。
(何とも、こすっからい)
陽炎の心は塞いだ。
それが戦国の世を生きるということか。
左右から気配が、やって来る。
焔と燐である。
陽炎と同じ忍び装束。
「どこも警備は厳重だ」
焔が言った。