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「幽霊姫」すなわち竜丸の姉、十四歳になる蜜柑姫である。
そのあだ名の由来は蜜柑が物心がつき、片言を話し始めたときまで遡る。
蜜柑は霊が見えるのだ。
幼い蜜柑があまりにも霊の話をするので、乳母やお付きの腰元たちは信竜や柚子の手前、あからさまな態度には出さなかったが、内心、気味悪がり、主君の娘を大いに恐れた。
最初は素直に眼に映る霊の存在を口にしていた蜜柑も、成長と共に自分が他の者と違うと気づき、そのことについては何も言わなくなった。
しかしまれに、蜜柑が何もない空中や、城内の庭を黙したままじっと見つめるとき、人々は以前の噂を思い出し「きっと幽霊を見ているに違いない」と、怯えるのだった。
蜜柑の母、柚子はこれに心を痛めた。
柚子は蜜柑の超常の力は、自分に原因があるのではないかと考えていたからだ。
柚子は丁度、蜜柑と同じ年頃に、今は夫である信竜の父が起こした謀反により、城を追われ弟と共に逃亡していた時期があった。
その道中で弟を失い、異様な力を持つ者たちに助けられ、しばらく共に過ごしたのである。
あるいは、あのときに自分が超常の世界のそばに身を置いた影響が、娘の蜜柑に出現してしまったのではないか?
そのように思えて仕方ないのだった。