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静香が武龍の言葉に従った。
眼を閉じた暗闇の中に小さな光がある。
「その光が桜だ。今すぐ、そこへ向かい合流せよ」
「分かった」
静香が答えると同時に、武龍の姿が突然、かき消える。
静香はさして、驚いた様子もなかった。
死人を甦らせる者ならば、突然、姿を消したとておかしくはない。
そう思った。
「さて」
静香が言った。
「再び、この世を味わうとするか」
かつて大山城と呼ばれたその城は、今は小諸城という名であった。
城主は小諸信竜。
以前は鬼道信竜と名乗っていた。
小諸義時の娘、柚子を娶り、二人の子をもうけている。
弟である嫡男、竜丸は十二歳。
いずれは家督を継ぐこととなる。
あまりに優しいその気性から、生き馬の眼を抜く、この戦国の世を渡っていけるのかと心配する者も少なくはない。
だが、城内の者たちの口にのぼる噂話の最たるものは竜丸ではなく、「幽霊姫」についてだった。