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壁をぶち破り、屋外へと消えていく。
美剣は本気で目覚めかけた己の中の獣を鉄の精神力で、なだめた。
(隼人の何という剣気か!)
美剣は内心、舌を巻いた。
(わしを本気にさせるとは、末恐ろしい)
凍りついていた門弟たちが、ようやく道場の壁穴へと「若!」と駆けつけた。
と、あり得ざることが起こった。
穴から隼人が顔を出したのだ。
右のこめかみと右眼から、真っ赤な鮮血が滴り落ちている。
おそらく、右眼はもう使えまい。
しかし、隼人は。
笑っていた。
息は、はあはあと荒く。
残った隻眼は爛々と闘志を浮かべたまま。
笑っている。
勝負が楽しくて、たまらないのだ。
(隼人め、すんでのところで木刀の芯をずらしおったな!)
美剣は。
諸国にあまねく知られた押しも押されぬ「大剣豪」美剣は。
このとき、僅かに。
ほんの僅かに背筋が、ぞくりとなるのを感じた。
隼人の側へ駆けつけた門弟たちは、あまりの凄惨さと、その少しもしぼまない、否、むしろさらに増大し続ける闘気にたじろぎ、声を無くしている。
隼人が門弟たちを押し退け、前に一歩を踏み出そうとした、そのとき。
「入るでないわ、しれ者がっ!!」
美剣が吼えた。
「今のが真剣での立ち合いなれば、お前はもう生きてはおるまい!!」