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武龍伝  作者: もんじろう
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「そのひどい格好をどうにかしろ」




 赤蜘蛛の糸がまとわりついた巫女装束を洗うため、桜は森の中の池のほとりにやって来た。


 後ろには静香がついて来ている。


 いざ、池に入ろうというところで、桜が静香へと振り向いた。


「静香様」


 桜の顔が、ほんのりと赤くなっている。


「後ろを向いてください」


 静香は答えない。


 ただ、じっと桜を見ている。


「静香様?」


 桜が戸惑った。


「私はかまわない」


「私が恥ずかしいのです!」


 桜の言葉にも、静香は動かない。


 しばしの沈黙。


 一向(いっこう)に後ろを向かない静香に諦めたのか、桜が着ている服を脱ぎ始めた。


 静香の方を向いたままである。


「恥ずかしければ、お前が向こうを向けばよかろう。何故、そうしない?」


 桜の若々しく豊満な美しい胸を見つめながら、静香が問うた。


 今度は桜が答えない。


 黙って、身体と着物に付いた糸を洗い流す。


 静香はしばらく桜の裸身を凝視(ぎょうし)していたが、やがてその場を離れ、辺りに落ちている小枝を集め、焚き火の用意をし始めた。


 羞恥(しゅうち)のあまり、顔どころか全身をその名の通り桜色に染めていた桜は、静香の様子を見て、やや落ち着いた。


 静香のこの世のものとは思えぬ、美しくも猛々しい何か恐ろしい狂気を秘めた瞳に見つめられると、生まれたときから清廉(せいれん)な巫女として過ごし、俗世の欲から距離を置いてきたはずの穏やかな心が、根元の部分ごと大きく揺さぶられるのだ。


 桜の頬が、いっそう赤くなった。


 まだはっきりとは分からない何かが、桜の心で起こり始めている。


 全ての糸を洗い流した桜は、静香の元へと戻った。


 焚き火にかざし、濡れた衣服を乾かす。

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