42
細い首には横一線の傷が走っている。
驚きのあまり、金縛りの如く固まる者たちを意にも介さぬように、女はゆっくりと腰の長刀を抜く。
そして、ぽーんと真上へと跳び上がった。
軽々と樹上の赤蜘蛛の位置までたどり着き、刀をさっと振った。
逆さまの体勢の赤蜘蛛の頭が、脳天から顎まで縦に真っ二つに割れた。
声もなく死んだ赤蜘蛛の身体から、力が抜ける。
桜が徐々に下がり、地面に着いた。
跳び上がった女剣士は、すでに地上に立ち、再び刀を鞘に納めている。
仲間の死に一瞬、凍りついた五人の忍びと包帯侍が、ようやく正気に戻った。
忍びたちが、さっと後方へ跳び、女剣士と距離をとる。
赤蜘蛛は、けして弱くはなかった。
しかも狂虎から人ならざる力を授かり、蜘蛛糸を自在に操れたのだ。
その赤蜘蛛をただ一刀のみで屠った、この女の強さこそが異常であった。
五人の忍びは女の身体から発散される尋常ではない剣気に押され、下手をすれば今にも逃げ出さんばかりの恐怖を感じた。
包帯侍はというと、それとはいささか反応が違った。
自らの長刀を抜き、両手で八相に構える。
女剣士の前へと立った。
「蟲流、白帯」
包帯侍が流派と名を名乗った。
女剣士は少し考えた後に、それに応じた。
「我流、静香」