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しかし結局、静香は戦いに敗れ、死んだ。
もう、何も斬ることは出来ない。
静香の脳裏に、刀を鞘走らせ、あらゆるものを斬る感触が甦った。
生きていたときは、何を斬っても満たされなかった。
また、あの虚しさへ己が身を放り出すのか?
斬っても斬っても続く地獄の苦しみ。
それとも、何も斬れず何も感じぬ、死という牢獄を選ぶのか?
「どちらも同じ地獄なら」
静香が武龍の眼を正面から見た。
「斬る地獄へ戻ろう」
「よし」
武龍が頷いた。
ぶつぶつと何かを呟く。
一瞬で、裸だった静香が紫色の着物姿へと変わった。
左腰には長刀と脇差しが携えられている。
「まずは約束事を決めておく」
武龍が言った。
「非道な行いは、けしてせぬこと。もし、行えば私がお前を元の屍へと戻す」
静香が頷く。
「お前に頼みたいのは『門鐘の巫女』桜を守り、その手助けをすること」
「門鐘の巫女?」
「そうだ、すでに二人の巫女が将軍家の手に落ちている」
「将軍家だと?」
静香の片眉が上がった。
「大事だな」
「そんなことで臆するお前ではあるまい」
武龍が言った。
確かに静香の口元は僅かではあるが、ほころんでいる。
「桜の居場所が常に分かる力をお前には与えてある。眼を閉じ、桜の名を思い浮かべてみよ」