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胸元まである、やや曲線を描く黒髪が揺れる。
ふっくらとした、かわいらしい顔立ち。
娘の名は桜。
「門鐘の巫女」の一人である。
鐘を守る神官たちが住む隠れ里で、いつものように朝の禊を行い、日の本の平和を祈祷し始めたところで突然、忍び装束の男たちの襲撃を受けた。
すぐに事態を把握した神官の長の手によって、桜は里の外へと逃がされたのだ。
神官の長は桜に言った。
「鎮めの森の先に住む剣豪『紫雲』様を頼れ。事情を話せば必ず力になってくださるはず」
その言葉だけを胸に、桜は走った。
何の武芸の心得もない桜が敵に見つかれば、抵抗することさえ難しい。
長い時を走り続けた桜は、とうとう、その足を止めた。
両手を両膝につき、息を整える。
(里はどうなっただろうか?)
激しい不安が桜を襲った。
里の皆の顔が、頭をよぎった。
(どうか、どうか皆が無事でありますように)
胸の前で手を合わせ、祈った。
そのとき。




