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巫女たちを視線だけで殺さんばかりに、にらみつけている。
鼻筋の通った鼻の下にある、かわいらしい真っ赤な唇が開いた。
「そこな男は、わらわの物ぞ!」
「夜叉姫様!!」
慌てて牢番が駆けつけた。
驚き、座り込んでいた竜丸が、その名を聞き、はっとなった。
(では、この人が将軍家の…)
牢番に入口を開けさせた夜叉姫は牢に入り、一直線に竜丸へと歩を進めた。
先ほどは夜叉姫の激しい声に動きが止まった桔梗が、その前に立ち塞がる。
竜丸を守らなければという一心からの行動であったが。
夜叉姫の右手のひらが、桔梗の左頬を打った。
「きゃっ」と桔梗が、へたり込む。
「この女、わらわの行き先を遮るとは、何たる無礼か!!」
夜叉姫の双眸が、再び怒りで燃えあがる。
「わらわは鳳夜叉なるぞ!!」
夜叉姫の手のひらが、続けて桔梗を打った。
二度、三度、打ち続ける。
怒りはまったく収まらない。
狂虎の勘気にも負けず劣らずの激しさであった。
座り込んでいた竜丸が立ち上がった。
夜叉姫と桔梗の間へと身体を割り入れる。
夜叉姫の手のひらが、今度は竜丸の頬を打つかと思われたが。
寸前のところで夜叉姫の手が止まった。
夜叉姫の瞳が、竜丸のそれを食い入るように見つめる。