34/204
34
(待てよ…)
竜丸は思った。
あのとき、確かに将軍家は「余の娘、夜叉姫と夫婦にする」と言っていた。
それが将軍家の気運を上げると。
(そんな馬鹿なことがあるだろうか?)
いや、だが今、現在の状況こそが、すでに予想も出来ない馬鹿な事態と言えるのではないか?
狂虎に魔力を授かったという怪人たちや「門鐘の巫女」の話は、ついこの前まで小諸城で姉に甘えて暮らしていた竜丸からすれば、全てが異常事態である。
(姉様…)
竜丸は蜜柑を想い、ふと泣き出しそうになった。
間仕切られた厠と身を洗う洗い場が併設された地下牢に、広々としているとはいえ、若い男女三人が閉じ込められた状況とは、なかなかに恥ずかしく、つらいものであった。
一番年下の竜丸の手前、二人の巫女は言葉に発したりはせぬが、相当な恥辱を感じているに違いない。
地下牢では外の様子が分からないものの、牢番が持ってくる食事で、捕らわれてから二日が経っていると推察できた。