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これは忍びにとっては強みとなる。
忍びは目立たぬことが最も重要なのだから。
何の変哲もない百姓の娘姿である。
「焔と燐を連れ、鬼道城を探れ。蜜柑様と竜丸様が捕らわれているかも確かめるのじゃ」
「はっ」
陽炎は頭を下げ、現れたときと同じように音も無く暗闇へと姿を消した。
鬼道城の地下牢に移された竜丸は、そこで二人の美しい娘たちと出逢った。
牡丹と桔梗である。
二人の年齢は十八。
両者ともに「門鐘の巫女」だと言う。
「『門鐘の巫女』とは何ですか?」
竜丸の問いに牡丹が答えた。
今の世よりも、もっとずっと昔。
日の本は違う世界よりの侵略を受け、まさに滅ぶ寸前まで追い込まれたという。
将軍家の初代である鳳武尊は、ひとつの大きな決断を下した。
手元の七つの神器と己が魂とを引き換えに、さらなる別の世界の助力を得るという策であった。
武尊はその世界の主から三つの鐘を譲り受け、戦場で鳴らした。
鐘の音が三つ同時に鳴り響くと異界への門が開き、恐ろしい力を持つ軍勢が現れ、武尊の采配に従い戦った。
武尊は長い戦いの果てに勝利を掴んだ。
日の本は守られた。
武尊は約束通り、神器と共に助力した世界に去っていった。
三つの鐘は日の本に残された。