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狂虎が忠久へと平伏した。
「お前が余の天下取りの条件とした…余に取引めいたものを持ちかけるとは正直、腹立たしいが」
「申し訳ございませぬ」
狂虎がさらに頭を下げた。
が。
誰からも見えない狂虎の顔はもちろん、仮面によって隠されてはいたのだが、その口元は歪み、明らかに不満げで、双眸は先ほど空怪に向けていた怒りと蔑みの色をたっぷりと含んでいるのであった。
「竜丸が無傷で手に入ったのじゃ。少々の犠牲には眼をつぶってやれ。要は竜丸と余の娘、夜叉姫が夫婦となれば、お前が言う天下を再び将軍家が治める強運を呼び込めるのであろう?」
「はっ」
狂虎が面を上げた。
その顔からは、はっきりと分かる怒りの表情は消え去っていた。
「姫様のご婚礼と三人の『門鐘の巫女』が揃えば、必ず天下は将軍家のお手の中へと戻りまする」
狂虎が言い切った。
「ならば、もう良い。余に要らぬ殺生を見せるでないわ」
「はっ」