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「はっ! これなるは小諸信竜の嫡男、竜丸でございまする!」
「ほう」
侍の口元が、ほころんだ。
「それが竜丸か。余は鳳忠久じゃ」
自分に話しかけた忠久の名を聞いた竜丸は、はっとなった。
鳳忠久とは、家臣の裏切りにより謀殺された前将軍の実弟である。
兄の将軍就任の折、仏門に入ったが、兄が殺されたと知るや還俗し、代々将軍家を支援してきた勢力と結びつき、何とか一城を得ることには成功した。
が、正統将軍としての肩書きはあれども、天下に号令をかけ、上洛するほどの武力は持たぬ、なかなかに中途半端な身の上であった。
(将軍家であれば鳳城におわすはず。では、ここは鳳城なのか?)
竜丸は、いろいろと考えを巡らせたが、もちろんこの城は鳳城ではなく、鬼道城である。
数多の戦国大名たちと権謀術数の限りを尽くして、上洛を目指し戦っているはずの将軍家が、自らの城ではなく、僻地ではないものの京にそう近いわけでもない、この地方の一城に秘かに入城しているということになる。
とにもかくにも、相手が将軍家と知った竜丸は姿勢を正し、しっかりとした所作で頭を下げた。
「小諸竜丸にござりまする」
「うむ」
忠久が満足げに頷く。
「狂虎よ」
今度は狂虎に声をかける。
「はっ」