199/204
199
夜叉姫は気丈にも自らの涙を拭い、蜜柑に笑顔を見せた。
「義姉様、夜叉にございます」
夜叉姫が頭を下げる。
「妻」という言葉に蜜柑は、ぎょっとなった。
武丸が信虎の企みを暴いた折に、竜丸が将軍家の娘を娶ったことは、すでに語られている。
状況としては理解していたが、実際に竜丸の口から「妻」という言葉を聞き、夜叉姫を間近に見てみると、子供と思っていた弟が急に大人になったようで、やはり戸惑いを感じた。
「夜叉殿は…このまま…?」
さらに蜜柑の中では、二人の婚礼は強要されたものとの認識である。
異常な状況下での婚礼は二人が不本意であれば、無かったことにするのも、やぶさかではないと考えていた。
蜜柑の言葉に父親の死の悲しみも、とりあえずは横に置いて、夜叉姫の生来の気性の激しさが、むくむくと鎌首をもたげた。
「義姉様」
蜜柑を美しい瞳で食い入るように見つめる。
「この夜叉は、どんなことがあろうとも竜丸に添い遂げる覚悟にございます」