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「何だ?」と静香。
「あと、お二人には罰として、私たち『門鐘の巫女』をそれぞれの里まで送ってもらいますね」
桜が、にこにこと笑う。
「げっ。前言撤回じゃ。かわいい娘さんの方が、きれいな娘さんよりも恐ろしい」
奇妙斎と桜が、いっしょに笑いだした。
静香の口元も微かに笑っていた。
「父上! 父上!」
将軍家の遺体にすがりつき、泣く夜叉姫。
その震える肩を竜丸が後ろから抱きしめる。
蜜柑と隼人と春馬の三人は、その二人をやや離れたところから、悲しげに見つめていた。
美剣の霊は蜜柑の頭上で浮いている。
自らの野望のために異界の軍を利用しようとしたとはいえ、夜叉姫にとっては唯一の父。
その心中を思んばかると、三人は胸が痛くなった。
しばらく後、竜丸と夜叉姫は三人の側へと戻った。
「竜丸」
「姉様」
姉弟は手を取り合った。
考えてみれば長い道のりであった。
小諸城の庭で竜丸を拐われてから、数々の苦難を乗り越え、ここまでやって来た。
そしてついに弟を取り戻したのだ。
しばらくぶりの竜丸の顔は、心なしか凛々しく、男らしくなっていた。
喜ぶ蜜柑に隼人と春馬も笑顔になる。
「姉様」
竜丸が言った。
「竜丸の妻、夜叉です」
泣きはらし、眼が真っ赤になった新妻を竜丸が姉の前に誘った。