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武丸が前を向き、暗闇の中へと姿を消す。
重々しい音と共に、鉄の門が閉まった。
そして。
鉄門は現れたときと同じく、あっという間に消失した。
「やっと終わったな」
無法丸が言った。
隣の陽炎が頭を下げる。
「無法丸、本当にありがとう。あなたが居なければ、私は死んでいた」
「さっき、武龍…いや武丸か? ややこしいな。武丸に言った通りだ。俺は、こういう性分」
無法丸は、にやりとした。
「さて、行くとするかな」
「どこへ?」
「さあな。まあ、まずは刀を探して旅を続けるか…全然、見つからないがな」
無法丸が頭を掻いた。
「お前はどうする?」
無法丸の問いに陽炎は、小首を傾げた。
「私?」
「ああ」
「私は蜜柑様たちを小諸城に送ったら、忍びの里に帰ります」
「忍びの里か…」
無法丸が心配げに言った。
「己を殺して生き続けるのか?」
「今は」
「今は?」
「ええ、今度のことで私は、自分がたとえちっぽけでも、大業の一助は出来ると知りました。これからはもう少し…自分の頭で、ものを考えてみようかと思います。だから」
「なるほど。だから、『今は』か」
無法丸が笑った。
「お互いに思わぬ形で再会するかもしれないな」
陽炎も、ふふっと笑った。
忍びである陽炎が心から笑ったのは、いつぶりだろうか?
感情をずっと殺してきたのだ。