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いつの間にか、冥の手には先端に鉄の輪が付いた鎖が握られていた。
冥が鉄輪を信虎の首にはめた。
信虎を押さえていた圧力が解ける。
冥が信虎の顔を踏みつけた。
骨が折れる音が響く。
常人であればもう、とっくに死んでいる怪我だが、信虎は死なない。
永遠に続く地獄の痛み。
「やめてくれ! やめてくれ!」
「黙れ!! 喋ったら殺す!!」
冥が大喝した。
信虎が、ぴたりと黙る。
「こいつは、これから永久に苦しみ続ける」
冥が、にやーっと笑った。
見る者の心胆を凍りつかせる、恐ろしい笑みであった。
「武丸」
冥が言った。
「収めな」
「はっ」
武丸が頭を下げる。
呆然と成り行きを見守っていた蜜柑たちの前に立った。
「皆、難儀をかけた。申し訳なかった。特に」
武丸が夜叉姫を見つめる。
「そなたの父は残念であった。私も万能ではない。許されよ」
武丸の言葉に夜叉姫は涙を流し、頷いた。
その涙を抱き合った竜丸が拭ってやる。
「蜜柑、竜丸」
武丸が言った。
二人が武丸を見る。
「姉弟、仲良くな。お互いを思いやるのだぞ」
二人は頷いた。
「叔父上」
蜜柑が言った。
武丸が母の弟だと確信していた。
「小諸城へ、おいでくださいませ。母も逢いたがるはず」
武丸が首を横に振る。