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「あたしは、お前を今すぐに完全に消せるんだよ」
信虎は唇を噛み、下を向いた。
「武丸、続けな」と冥。
「冥様の力で生き返りし者は望みが叶えば、冥様の所有物となります。信虎の望みは『天下統一』」
武丸が信虎へと視線を向けた。
「私が力を貸せば、そうはかからずに信虎の願いは叶ったでしょう。しかし、それでは信虎には都合が悪いのです」
「どういうことだい?」
「信虎は天下統一後も日の本に留まり、人間として天下を治めたいと考えたのです」
冥が武丸の肩に腕を回した。
「なるほど。続けな」
「そのために実行されたのが今回の謀。自らの血筋である竜丸に将軍家の娘を娶らせ、将軍家とする。竜丸の身体を乗っ取り、異界の軍を呼び寄せ、天下を統一。竜丸として願いを叶えれば、信虎の魂が冥様のものとなる結末を避け、なおかつ自分が将軍家として日の本を統べられる。このような策略かと」
「たーけーまーる」
冥が小首を傾げ、かわいらしく言った。
「もっと簡単に言ってみて」
武丸が息を大きく吸った。
そして。
「この信虎は冥様との約束を破ったのです!!」
「い、いや、それは!!」
信虎が冥へと、にじり寄った。
冥の双眸が、どす黒く染まる。
突如、信虎の身体が畳に押さえつけられた。
まるで透明な巨大な手のひらが、信虎を上から圧しているようであった。
「ぐああああっ!!」
信虎が、うめいた。
全身の骨が折れ、顔面が歪んでいく。
「信虎…舐めやがって!! あたしに逆らったね!!」
冥が吼えた。
「あがががっ!! お、お許しを!! お許しを!!」
涙と鼻水を垂らし、信虎が懇願する。