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武丸に近寄って背後から抱きつく。
両腕を武丸の首に回した。
胸の双丘を武丸の背中に押しつける。
「武丸、信虎の邪魔をしたのかい?」
武丸は黙っている。
それも束の間。
「いえ」
断言した。
「何もしておりません」
「な!?」
これには信虎が眼を剥く。
「お、おのれ、のうのうと!! よくも、そんな見え透いた嘘を!!」
「あはははは!!」
冥が大笑いした。
武丸の眼前に、その美しい顔を近づける。
猫のような瞳が武丸をにらみつけた。
武丸は平然と見つめ返す。
「お前、何だか図太くなってきたね。あたしと、ずっといっしょに居るからかしら? あたしがお前を気に入ってるから、これくらいは大目に見ると踏んでるのかい?」
武丸は答えない。
冥が武丸の頭を両手で押さえ、やおら、口づけた。
あまりの激しさに一同が、ぽかんとなる。
冥が顔を離した。
武丸の口元が口紅で真っ赤になっている。
何とか動揺を抑えてはいるが、武丸の頬は朱に染まっていた。
武丸が口元を袖口で拭う。
「罰だよ、罰!!」
冥が、けらけらと笑った。
武丸が咳払いし、落ち着いた表情に戻る。
「私は信虎を見張っていました。そこで信虎の不正に気づいたのです」
「言いがかりだ!!」
信虎が叫ぶ。
「お前…何回、言ったら分かるんだい?」
冥が、すごんだ。