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よだれを垂らさんばかりの腕丸の八本刀が蜜柑を襲う。
虎然の六本の腕が、襲いくる刃を受け止めたが。
「ひひひっ!! お前は六本っ!! 俺は八本っ!!」
左右一本ずつ残った腕丸の一番下の一組が、すくい上げるように蜜柑へと突進していく。
「ひひひっ! 死ね、小娘っ!!」
かん高い金属音を上げ、腕丸の二本の刀が止まった。
「なっ!?」
腕丸の笑顔が消えた。
蜜柑の背後より、いつの間にか伸ばされていた二本の刀身が、がっしりと腕丸の刀を受け止めていたからだ。
蜜柑と虎然の後ろに誰かが居る。
蜜柑も、その気配を感じた。
何者かが蜜柑の奥襟を掴み、後ろに引っ張った。
蜜柑の背後から二本の刀を出した人物が、入れ替わりに前へと出る。
青年、否、少年であった。
蜜柑より、やや年上か。
逆立った黒の短髪。
右眼は刀の鍔を眼帯代わりに当てている。
山袴を穿いた剣士の風体だ。
肌は浅黒く、隻眼は猛獣のように鋭い。
なかなかの体格、細身だが筋肉質であった。
少年剣士は両手にひと振りずつ持った刀で腕丸の刀を押し返すと、自らの二刀を右手の刀は左腰の、左手の刀は右腰の鞘へと納めた。
呆気に取られている腕丸と、刀が届く距離で相対する。
「春馬!」
少年剣士が言った。
「その女の子は任せた」
「うん」