184
信虎の左肩の三本の甲虫脚がシェルを空中で叩く。
炎が噴出し、脚を焼いた。
もちろん、隼人には被害が及ばぬよう計算された量である。
「小賢しい!!」
信虎が怒鳴る。
シェルにより注意を削がれた信虎の刀を隼人が押し返す。
その隙に蜜柑の頭上の煙は、すさまじく体格の良い老人へと姿を変えていた。
「そなたの名は!?」
蜜柑が問うた。
「『大剣豪』美剣!!」
煙の老人の答えに、蜜柑に背を向けた状態の隼人が反応した。
「この声は、じじい!?」
死人侍と戦っている無法丸も「大剣豪」美剣に眼をやった。
「あれは…」
何やら複雑な表情になる。
美剣が奇妙斎に気づいた。
「おお、『紫雲』ではないか!! 久しいな!!」
奇妙斎が、ばつの悪そうな顔になった。
口に指を一本立てて、しーっとする。
「みっちゃん、わしは今、奇妙斎なんじゃよ!」
「ええ!?」
桜が思わず声を上げる。
「神官長様が仰られていた『紫雲』様は、奇妙斎様だったのですか!?」
死人侍の攻撃をいなしながら、奇妙斎が桜にも、しーっとする。
「かわいいお嬢さん! 秘密じゃよ、秘密!!」
「ボクに力を貸して!!」
蜜柑の大音声。
「おう、不肖の孫の窮地と知って駆けつけた!!」
美剣が割れんばかりの大声で答える。
「じじいの助けなんか、要らねえ!!」
隼人が叫ぶ。