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「姉様」
竜丸の瞳から涙が、こぼれた。
「やりました、姉様。この竜丸、何とか日の本と妻を守りきりました」
「妻」の意味は、よく分からないが、弟の言葉に蜜柑も涙を流し、何度も頷く。
「よくやった。よくやったよ、竜丸」
大広間の最も奥に伏せた信虎。
そして中央に静香、隼人、無法丸、奇妙斎と斬り結ぶ六人の死人侍。
入口側に蜜柑と春馬、竜丸と夜叉姫、陽炎、三人の巫女という位置取りとなった。
「おーのーれー、このごみ虫どもめがっ!!」
信虎の怒りが爆発した。
「よくも、わしの天下獲りの邪魔をしてくれたな!! 竜丸の身体を乗っ取らずに…このままの姿で天下を獲れるならば…いや、しかし、それでは…」
信虎が首を横に振る。
「ここまで、わしが積み上げてきた努力を全てご破算にしおって…今一度、策を練り直し、再び天下獲りに乗り出さねば…だが!!」
信虎は敵全員を順に、火が出るような双眸でにらみつけた。
「お前たちには全員、むごたらしい死を与えてやる!! そうせずば、この信虎の気が収まらぬ!! 皆殺しにしてくれるわ!!」
腰の刀を抜いた信虎が、憤怒の表情で蜜柑たちの方に踏みだす。
「待て、狂虎!!」
静香が怒鳴り、信虎に近づこうとするが、二人の死人侍に阻まれる。
「どけい、死人めが!!」
静香が、自らも死人であるのを忘れ激怒した。
このとき、戦いの隙間を上手くすり抜け、信虎の前へと出た者が居た。
隼人である。
「お前は俺が倒す!!」
隼人が吼えた。
信虎が足を止める。
「小僧っ!! お前から死にたいか!!」
信虎の大音声。