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(何という醜さだろう。人とは身勝手な欲望で、ここまで醜く、本物の怪物になれるものなのか。こうはなるまい。どんなことがあっても、この竜丸はこうなってはならない)
「竜丸となった、わしが天下を獲らねば! そうでなければ、わしは…わしの魂は…」
信虎が、そこで言い淀んだ。
赤い月へと帰る軍勢を確かめ、陽炎は、ほっと胸を撫でおろした。
(やはり、武龍様に見せていただい通りの策略であった。何とか阻止できた。何も考えず、任務をこなすだけの根なし草だと思っていた自分が…心の穴から眼を逸らし…何も特別な力は持たない、ちっぽけな存在だと思っていた自分が…今、この世を大難から救う一助を果たした。私はやった。やり遂げた!!)
陽炎は、まだふらついてる竜丸を夜叉姫と両側から支え「門鐘の巫女」たち三人を従えて、乱戦の中、安全な場所を見極め、蜜柑と春馬に合流した。
「竜丸!!」
蜜柑が竜丸に駆け寄る。
やや、やつれた竜丸の顔を撫でる。